とにかく、ナイキは今、「移り気で心のない大手企業と違う」と一気に株を上げた形になっている。同社の創業者、フィル・ナイト氏はこれまで、ウッズのスポンサーを降りなかった理由を明らかにはしていない。だが、表に出たがる経営者が多い中、そんな姿勢もまた、同社の好イメージにつながっている。
そもそもナイキは最近、広告に絡んで全米を巻き込んだ話題を振りまいてきた。独自路線を突っ走り、かなり攻めた広告を発信している。
18年には、アメリカンフットボールの米スター選手であるコリン・キャパニックを広告に起用して物議を醸した。なぜ物議になったかというと、キャパニックはその2年前に、米警察のアフリカ系米国人に対する暴力に抗議する意味合いで、試合前の国歌斉唱時に起立を拒否し、膝をついた姿勢でいたことが大きな論争に発展したからだ。
要するに、国歌斉唱に起立しなかったために大炎上したアスリートを、あえて広告に起用したのである。キャパニックのアップの顔が全米中のビルボードに掲げられ、こんな文言が白字で書かれていた。「何かを信じぬけ。それが全てを犠牲にすることになったとしても」
これにより、「ナイキをボイコットせよ!」との声が上がる一方で、ナイキの株価は急騰、オンラインなどの売り上げも30%以上増加した。ナイキの勝利である。もちろん話題だから起用したという安直なものではなく、マーケティングの専門家らに言わせれば、ナイキはメイン顧客である若者の多くがキャパニックを支持していたことを考慮していたという。また、ブランド信仰というものは若いうちに築かれることも分かっていた、という見方も報じられていた。つまりは、きちんとした計算と分析による起用だったようだ。
これは日本のような、同じタレントがいろいろな企業の広告で使われるのとは対極にある。とにかく、広告の目的が商品を買ってもらうことなら、他と同じことをしていてはだめ、ということだろう。同じタレントを使うと独自性がなくなり、高い費用で広告を出しても目立たなくなってしまうし、消費者を混乱させることにもつながる。
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