筆者はこれまで、米国で高齢ドライバーが運転する車に乗せてもらう機会が何度もあった。米国は日本と違って道が広いために、高齢ドライバーも運転はしやすい。運転してくれた高齢者たちは、明らかに認知症ではなかったが、それでも判断力は若者と比べて断然低いと常々感じていた。耳が遠い人もいたし、視力も衰えているように感じた。この経験から、体の機能が衰えつつある高齢者が自動車を運転するということ自体、もっと厳しく捉えてもいいのかもしれないと思ったものだ。
ドイツで行われた研究では、65〜75歳の高齢ドライバーの10人に8人ほどは、運転しながら何か他のことをしようとすると、道路からはみ出してしまうことが分かったという。つまり、運転中に何か注意をそらすようなものがあれば、事故を起こしてしまう可能性が高まるということだ。認知症うんぬんだけが問題ではないのである。
ある一定の年齢を迎えた高齢ドライバーは運転を厳しく制限するなどの措置をとる必要があるのかもしれない。日本は幸い、公共交通機関やタクシーなどが充実している。
自分の能力低下を自覚していた高齢ドライバーが、自転車で横断歩道を渡っていた何の罪もない親子の人生を突然奪うようなことは二度とあってはならない。
山田敏弘
元MITフェロー、ジャーナリスト・ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。
国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最近はテレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。
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