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リーダーが育つプロジェクトに欠かせない10の原則強力なマネジャーの下で働く経験は“逆効果”?(3/3 ページ)

» 2019年05月09日 08時00分 公開
[白川克ITmedia]
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原則7:TRIAL(トライアル)

 かなり多くの社会人が、「学習≒正しいことを教わり、覚えること」と思っている。育成部門に呼ばれて5年次研修や管理職研修を受け、育成部門の人が選定した講師から問題解決やリーダーシップについて学び、覚えようとする。そういう人にとっては「やったことのないこと、教わっていないこと≒できないこと、できればやりたくないこと」になってしまう。

 テストに向けた勉強と違って、仕事での学びには正解がない。前例のない変革プロジェクトであれば、なおさらだ。だからいろいろと試してみる、「まずはやってから考える」、という姿勢があるかないかで、成長スピードが全く違ってくる。

原則8:PEACE(ピース)

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 ここで言うPEACEは、「心の平穏、心理的安全性」という意味だ。会社で働いている時、人は知らず知らずのうちにかなりのプレッシャーを感じている。「ちゃんとしたふるまいをしないと」「上司や先輩を立てないと」「部署の方針とズレたことしないように」「成果を出さないと」――といった具合だ。

 育つプロジェクトでは、立ち上げ期にこうしたプレッシャーを解き放つ仕掛けを作っている。プレッシャーのない心理的安全性が確保されていなければ、10の原則のうち「CHALLENGE」「OPEN」「TRIAL」「OPINION」の4つが成り立たない。「このプロジェクトでなら」「この部屋の中でなら」「この仲間たちになら」、本音で話ができたり、やったことがないことを試せる――。その安心感が、育つプロジェクトにとっては絶対に必要な条件だ。

 失敗しても笑う人はいない(なぜなら全員がチャレンジしているし、変革プロジェクトの難しさを理解しているから)。プロジェクト方針が固まるまでは、プロジェクト内で議論したことを外に漏らさない(企んでいることを中途半端に漏らすと失敗するから)――という環境下ではいつしか、同志、あるいは共犯者みたいな関係ができてくる。プロジェクトという、普段の仕事から半ば隔離されたチームだからこそ、普段とは違う働き方ができる。

原則9:FEEDBACK(フィードバック)

 日本のビジネスマンはPDCAサイクルという言葉が大好きで、よくプレゼンテーションにも登場する。しかし、ことプロジェクトと人材育成に関する限り、「Check」と「Action」を育つプロジェクトと同じレベルでやっている職場はほぼない。

 育つプロジェクトでは、個人からプロジェクト全体に至るまで、あらゆる活動に対して、フィードバック(あなたはこう見えますよ、こうだったのでは?)と振り返り(こうすべきだった、これが良かった)を繰り返す。会議の直後にやる振り返りもあれば、3カ月ごとに改善点を検討するミーティングもある。サイクルや頻度はさまざまだ。

 基本的に人間はフィードバックや振り返りをサボる習性があるので、育つプロジェクトではちゃんと実行するために、意図的に定期的に場を設定する。

原則10:RESPONSIBILITY & HAVE FUN!(「責任」と「楽しくやろうぜ!」という気持ち)

 新しいことにチャレンジする際、メンバーが過度なプレッシャーにさらされないように「失敗してもいいからまずはやってみなさい」というスタンスで接する、一見、聞き分けの良い経営幹部もいる。特にデジタル変革などと称して「AIでとにかく何かやってみよう」というようなプロジェクトに多い。

 そういう姿勢で「何か」をやっていても、「いろいろ難しいですね」で終わってしまうことが多い。プレッシャーがないのは、メンバーの側からするとありがたくはあるが、「プロジェクトを通じて人を育てる」という観点からはマイナスだ。「成功しなくても良い」というスタンスでは、成長に必要な「良質な修羅場」にはならないからだ。

 「絶対、成功させろ」という適度なプレッシャーは、育つプロジェクトに必須だが、一方でプレッシャーにつぶされそうになってビクビクしながら仕事をしても、萎縮してしまって「CHALLENGE」や「TRIAL」どころではない。プロジェクトは厳しくてシンドイものであり、だからこそ、「そのプロセス自体を楽しんでやろうぜ」という、おおらかさや余裕もまた、必須なのだ。

 しがらみ抜きで、仲間とガチで議論する楽しさ。新しいビジョンを描き、一つ一つ実現していく手応え。ヤバい局面を粘って切り抜けるスリル。その瞬間、感じる仲間との連帯感――。育つプロジェクトでは、プロジェクトをやることの楽しさを感じられるように場をコーディネートする。

 厳しさと楽しさ、というと矛盾しているように感じるかもしれないが両立はできる。人間は、「ラクじゃないと楽しくない」という風にはできていないのだ。


 以上が、育つプロジェクトが大切にしている10の原則である。これは「仕事を通じて人が育つための10の原則」と言い換えても良い。

 あくまでエッセンスなので、これだけ読んだだけではピンとこないところもあるだろう。そういう人のために、事例やエピソードや資料や写真を詰め込んだ分厚い本を書いたので、興味が湧いた人は本書を手にとってほしい。

著者プロフィール:白川克

ケンブリッジ・テクノロジー・パートナーズのコンサルタント。ファシリテーションを使ってプロジェクトを成功させるのが得意。詳しいプロフィールはこちら


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