大阪が誇る「スーパー玉出」 毎日「1円セール」をしてももうけが出る仕組みに迫る長浜淳之介のトレンドアンテナ(4/5 ページ)

» 2019年05月14日 05時00分 公開
[長浜淳之介ITmedia]

小売りのテーマパーク

 「1円セールは、販促の効果を狙ったものですね。アトラクションというか、お店の売りを面白くしているのです。最近は、パチンコ店のような内装の効果もあって、ありがたいことに東京などから大阪に観光に来た人が『スーパー玉出で買物をした』と、よくSNSに投稿してくれます。普通はスーパーで買物をしたことをわざわざSNSに投稿しないです。食材、総菜を介してエンターテインメントを提供しているとも言えます」(フライフィッシュ取締役管理本部長の浅浦哲夫氏)。

 浅浦氏によれば、スーパー玉出には東京ディズニーリゾートやUSJのようなテーマパーク的な要素があり、行って楽しい空間が構築できているのが強み。台湾の旅行ガイドにも掲載され、中国語圏では大阪の観光スポットの1つとして認識されている。店の前でポーズを取って記念撮影をし、SNSに投稿する外国人も増えている。

 24時間営業をしているのは、大阪のような大都会では深夜や早朝でも人が動いているという現実を踏まえてのことだ。「スーパー玉出に来ればコンビニにはない何かが置いてある」という顧客の期待に応えている。オペレーションの面では、夜中に総菜や弁当の仕込みをしたり、棚に商品を補充したりできる。また、店内の清掃もできるので、朝から昼の時間帯に余裕を持って営業ができるメリットもある。真夜中も総天然色のあかりが煌々と点いているので、防犯上も望ましいと地域住民に喜ばれているという。

photo 独特の世界観あふれる店内

ドンキとの類似点

 「スーパー玉出での買物の楽しさは、ネット通販では決して味わえません。ウチと考え方が似た業態があるとすれば、ドン・キホーテさんでしょうか。売場が整然とし過ぎた今のスーパーでは、面白くなくて、通販でもいいだろうとなってしまいます。そうでなくて、商品が段ボールで山積みされたほうが、お客さまは来るのですよ」(浅浦氏)。

 スーパー玉出では、先の折れたニンジンを超激安で売ったこともある。規格品にこだわる大手スーパーでは、あり得ない商品だ。しかし、先が折れていようが栄養価に変わりないと構わず店頭に並べた。

 いわゆる“コテコテの大阪”こそが、同店が似合う風景である。

 今後、大阪では2025年に万国博覧会の開催が予定されており、都心回帰の流れもあって、人口が増える傾向にある。しかし、タワーマンションの住人のような高所得者とスーパー玉出の顧客層が合っておらず、追い風になっているとは言い切れない。

 大阪の庶民の日々の食卓を従来通り満たしつつ、インバウンドを含めた観光客をいかに取り込んでいくか。経営を一新したスーパー玉出の再興に期待したい。

著者プロフィール

長浜淳之介(ながはま・じゅんのすけ)

兵庫県出身。同志社大学法学部卒業。業界紙記者、ビジネス雑誌編集者を経て、角川春樹事務所編集者より1997年にフリーとなる。ビジネス、IT、飲食、流通、歴史、街歩き、サブカルなど多彩な方面で、執筆、編集を行っている。共著に『図解ICタグビジネスのすべて』(日本能率協会マネジメントセンター)など。


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