「採用学」は本当に使えるのか結局は……(3/3 ページ)

» 2019年05月17日 08時30分 公開
[川口雅裕INSIGHT NOW!]
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 また、質問がうまいからといって、学生から重要な内容を聴き出せるわけでもない。なぜなら、学生は、信頼できる相手、親しみある面接官だと感じない限り、本当のことを十分な量でしゃべってはくれないからだ。いくらいい質問をしたとしても、その表情や身振り手振り、選ぶ言葉、醸し出す空気などが学生の気持ちを十分に和ませることができなければ、回答する情報は割愛された抽象的な内容に終わるだろう。

 もちろん、面接の質問が上手になっても、自社に入社を決めてくれるわけではない。入社の決め手は、面接官の質問力などではなく、たいていの場合、面接官が学生に与える印象の良し悪し、その場に流れる空気から感じる相性の良さ、提供する情報の個別性と表現力といったものになる。

 要するに、面接において最も大切なのは、学生それぞれが心地よいと感じる関係や距離を測り、それぞれが知りたい情報を分かりやすく、適切な言葉を選んで伝え、そこを楽しく有意義な場にし、そのプロセスの中から相手を知り心をつかむ力である。そして、それはデータで分析して分かるものではなく、理論やフレームで学べるものでもなく、担当者のセンス、個人技としか言いようがないものなのである。

 面接だけではない。採用担当者には、多様な側面を持つ自社をどう伝えるかというコンセプトメーカーとしてのセンスがいる。説明会や選考の場面では、参加者目線で居心地のよい空間を作り上げ、細やかな目配り気配りができるイベンターとしてのセンスも求められる。説明会では、参加者の人数や属性などの違いに瞬時に対応し、話す内容や話し方、自らの姿勢や見え方、参加者との関わり方も変えていく、優れたプレゼンターとしてのセンスが必要である。クロージングでは、互いの一致点と相違点を理解し、時期を定めながら上手な価値交換を通して決断を促すネゴシエーターとしてのセンスが問われる。

 採用は、営業のように顧客の悩みが明確にあるわけではなく、具体的な商品もなければ、お金のやりとりもない。相手と丸腰で向き合う、実に人間的な部分で勝負するしかない仕事であり、センスとしか言いようがない部分で成否が決まっているのである。そのセンスでさえ、アカデミックなアプローチで明らかにしようとするのが「採用学」だということかもしれないが、ここまで述べてきたようにそれは無理筋というものだ。せいぜい、人材サービス企業の営業ツールの中にエビデンスとして利用されるくらいだろう。(川口 雅裕)

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