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ユニクロはいかにして中国で勝ったのか? 「20年の粘り腰」に見る強さの源泉「S級国家・中国」“超速アップグレード”の実相【前編】

» 2019年05月20日 05時00分 公開
[田中信彦ITmedia]
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編集部からのお知らせ:

本記事は、書籍『中国S級B級論――発展途上と最先端が混在する国(編著・高口康太、さくら舎)』の中から一部抜粋し、転載したものです。


 米国に次ぐ世界第二の経済体となった中国。図体の大きさだけではなく、画期的なイノベーションを生み出すなど、創造力の面でも今や世界をリードする存在だ。10年前は「遅れた途上国」だった中国が、なぜ瞬く間に「S級国家」へと変貌したのか。長年中国と関わり続けている気鋭の論者に、社会、政治、技術の各方面から分析してもらった。

phot 上海のユニクロ店舗。中国市場を制した要因に迫る(以下、写真提供:ゲッティイメージズ)

中華風巨大おにぎり、激辛おでんも誕生

 中国のコンビニが急成長をはじめたのは2000年代半ば。その頃から北京や上海などの大都市では、都市部のホワイトカラーを中心に中間層が厚みを持ってきた。郊外にマンションを買って地下鉄で職場に通い、マイカーを持つ層である。通勤距離が延びて家庭で料理をする時間がとりにくくなり、中食や冷凍食品、レトルト食品などのニーズが出てきた。

 一方、都心部のオフィスでは、ランチとしての弁当やサンドイッチ、中華系ファストフード類などの需要が生まれた。こうした生活パターンはコンビニと波長が合う。

 商品開発や接客、サービスは中国風のアレンジを積極的におこなっている。弁当やおにぎり、サンドイッチ、おでんといった品目自体は日本でもおなじみだが、味つけや量などは中国流。中華風のたっぷりの具入りで、電子レンジで加熱して食べる巨大なおにぎりとか、炒めもの中心の弁当、カレー味や激辛のおでんなどは現地の発想から生まれたものである。一部の店では店頭であたたかい豆乳を売っているのも中国らしい。

 また都市化の進展とともに、市街地の景観や衛生面などの観点から、中国では食品やタバコ、雑誌などを販売する街なかの露店や屋台に対する規制が厳しくなり、それに代わる供給システムが求められてきたことも背景にある。この点、街角の露店や屋台が依然として強い勢力を保ち、コンビニと対抗している台湾やタイのバンコクなどとの違いがある。 

 ちなみに、02年秋、上海に初出店したものの、しばらく鳴かず飛ばずだったユニクロが中国で急激に売れはじめたのが06年のことである。いまや日本の小売業を代表する存在ともいうべきコンビニやユニクロが、この頃を境に中国で急成長をはじめたのは偶然ではない。

 数億人に達する「未来の中間層」を抱える内陸部が本格的に都市化するのはこれからで、中国のコンビニの将来性は高い。

phot 中国のコンビニの将来性は高い(深センのセブン-イレブン)

なぜユニクロは中国で売れるのか

 上海に住む友人の家の家政婦さんが、あるとき、こんなことをいっていた。

 「これから買う服はこの会社のものにしたほうがいい。洗濯してみると分かるが、ほかの会社のものとまったく品質が違う。何度洗ってもヨレヨレにならない。多少高くても、結局そのほうがトクだから、そうしなさい。私もこの会社のものしか買わないことにした」

 「この会社」とはユニクロのことである。ごく普通の庶民である家政婦さんが言ったこの言葉が、中国でユニクロが売れる理由を端的に物語っている。

 ユニクロが上海に中国1号店をオープンしたのは02年9月。18年8月末現在、ユニクロは中国大陸に633店舗、香港に28店舗ある。日本国内が827店舗なので、いずれ追い抜きそうだ。

 グレーターチャイナ(香港・台湾含む)の売上高は4398億円で、2年後程度をメドに中国大陸で1000店舗、今後5年以内に売上高1兆円、営業利益2000億円を目指すとしている。

 中国といえば繊維製品の「本場」である。その中国で日本のブランドがこれだけの成長を遂げているのは奇跡的ともいえる。なぜそんなことが可能になったのか。いくつかの理由があるが、最大のものは品質の高さ(と値段との関係)である。つまり「安くはないが、お買い得」なのである。

phot 繊維製品の「本場」中国でユニクロは奇跡的な成長を遂げている

圧倒的にコスパの高いユニクロの服

 中国国内で売られているユニクロ商品の価格は、例えばヒートテックの長袖が149元(約2400円)、ウルトラライトダウンのジャケットが399元(約6400円)など、おおむね日本国内より20〜30%ほど高い。中国の増値税(日本の消費税のようなもの、全て内税)が17%あるなどの理由でそうなるのだが、値段からみれば決して低価格ではない。

 中国には激安のB級衣料品はたくさんある。しかしその手の商品を買ってみると分かるが、とにかく品質がひどい。生地はペラペラ、襟が最初からゆがんでいる、あっという間にボタンが取れる、ボタンホールに穴が開いていない、縫製は曲がり放題、包装の中は糸くずだらけ、一度洗濯したらベロンベロンになってもう着られない……といった話がいくらでもある。もちろんそうでない製品もあるが、そういう商品は中国でもあまり安くない。

 そういう状況のなか、ユニクロは低価格帯の商品よりは高いが、圧倒的に品質がよいというポジションを確立し、2000年代後半から急成長した都市のホワイトカラー層の強い支持を得た。要するに、圧倒的にコスパが高い。「おしゃれは求めないが、“まともな”ものを着たい」。そういう普通の人々のニーズに合致したのである。

 それを可能にしたのが、中国のパートナー工場と1990年代から時間をかけて構築してきた生産体制だ。通常、アパレルブランドが中国の工場に発注する際は、複数の工場に見積もりを出させ、そのつど、もっとも安い工場に作らせるのが普通だ。

 しかしユニクロは違う。特定のパートナーと長期間の関係を結び、できる限り高品質な服を、可能な限り低い価格で、圧倒的に速く、大量に作るかに時間をかけて取り組む。

phot ユニクロは特定のパートナーと長期間の関係を結ぶ

パートナーから「大富豪」輩出

 よい服を高い効率で作るためには、工場だって優秀な人材を採用、育成し、作業環境を整え、最新の設備を買わねばならない。そのためには投資がいる。発注する側が「とにかく安くしろ」「高ければ他社から買うぞ」とばかりいっていたら、それは不可能である。 

 ユニクロは工場と率直に話し合い、「お互いに儲(もう)ける」という原則を守り、長期的に両者がノウハウを蓄積し、ともに成長力を高められる方法を模索してきた。

 それを20年以上もつづけてきたので、ユニクロのパートナー工場の生産力は質の面でも量の面でも、軒並み世界最高レベルに達している。だからこそ高品質で、相対的に低価格の商品を、大量に、速く世界に供給できるようになった。パートナー工場の中には世界最大級の規模に成長し、オーナーは大富豪になった人が少なくない。

 「自分だけが儲ける」のではなく、中国のパートナーと一緒になって成長し、儲ける。こういう姿勢が現在の中国マーケットにおけるユニクロの競争力になっている。こうした発想は日本企業として学ぶべきところが多いと私は思う。

phot 上海のユニクロ

著者プロフィール

田中信彦(たなか・のぶひこ)

人事コンサルタント、中国アナリスト。1990年代初頭から中国での人事マネジメント領域で活動。近著に『スッキリ中国論 スジの日本、量の中国』(日経BP社)。


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