よく叫ばれる「テレビ離れ」。総務省情報通信政策研究所の調査によると、平日のリアルタイムでの平均視聴時間は2017年で約2時間39分で、16年から減少傾向にある。中でも10代では約1時間13分と、若年層の視聴時間が特に減っている。
理由として主に挙げられるのは、スマートフォンの普及などインターネットの台頭。その一方でよくささやかれるのが「テレビ番組自体がつまらなくなってきた」という説だ。高視聴率のドラマやバラエティー番組が林立していた1990年代などに比べ、「誰もが話題にする」番組が減ったと感じる人も少なくないのでは。
今回話を聞いたのは、日本テレビで『世界まる見え!テレビ特捜部』『1億人の大質問!?笑ってコラえて!』『恋のから騒ぎ』などを手掛けた元テレビマン、吉川圭三さんだ。現在はKADOKAWAのコンテンツプロデューサーなどを務め、早稲田大学でも教鞭をとる。5月には、番組制作の現場で奮闘する主人公を描いた小説『泥の中を泳げ。テレビマン佐藤玄一郎』(駒草出版)を出版した。
今のテレビ番組や放送業界はどのように変わってしまったのか。日テレの黄金期を支えた1人とも言われるヒットメーカーに直撃した。
――吉川さんが『世界まる見え!』などのヒット番組を生み出していた90年代と比べ、テレビはメディアとして必ずしも絶対的な地位で無くなったように感じます。特に番組の質や内容はどのように変わったと思いますか。
吉川: テレビ業界全体に言えるのは、やはり実験的番組が減った点です。「数字」が読める番組ばかり。
日テレはフジテレビを抜いて視聴率三冠王になりましたが、(私がいた時には)結構「数字の見えない」、前例のない企画をやらせてくれたものです。『世界まる見え!』も『恋のから騒ぎ』も、『笑ってコラえて!』もそうでした。
(『笑ってコラえて!』で日本各地を巡る)「ダーツの旅」では、観光地には行きませんでした。「テレビに出るのは初めて」という村人だから面白い。そう思って僕は企画をやらせてくれと言ったのですが、「ダーツを投げて行先を決める」とか、会議室でみんな反対したものでしたよ。前例がない、データがないと言われて。でも、そういうことをやっていかないといけない。「5日間だけやらせてくれ」と言って実行したら、金塊を掘り当ててたんです。
今のテレビ番組はみんな似てきていると感じます。まず、ひな壇のセットを作り、お笑い芸人と美人アナウンサーを置き、ほめたり笑いをとったりする。もうそういうのはいいんじゃない、って思う。例えば、(番組の)最初からスタジオなしに映像をグワーッと流すとか、やっていないことはいっぱいあると思いますね。
だから今、NHKが先鋭的に見えるのです。大河ドラマは明治維新前の世界を描くものとされてきたのに、オリンピックを扱った『いだてん』とかね。失敗作とは言われていますが、これをやることで大河ドラマは表現が広がる。戦前・戦後のことをやってもいいのだ、となるのです。
コンテンツのパワーが減ってきていると思います。(番組の)プロデュースをする人も勉強不足ですね。昔は、最初7〜10%の視聴率で、頑張って20%に達した番組も枚挙にいとまが無かった。“勝ち組”ジブリを挙げるのは恐縮ですが、映画『となりのトトロ』も『火垂るの墓』も最初は全然客が入らなかった。(宮崎駿監督の)『ルパン三世 カリオストロの城』だって最初は大失敗と言われました。でも、世界の作品になったのです。
トトロもテレビ放映が(ヒットの)きっかけになったのかもしれないが、やはり志の高い物を作ったのが良かった。テレビ番組だって前例のない物を作るべきです。
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