――テレビ番組は質の面だけでなく、やらせ問題でも最近やり玉に挙げられています。日テレの『世界の果てまでイッテQ!』で、海外の実際に存在しない祭りを取り上げたという疑惑が記憶に新しいです。吉川さんの小説でも、報道の志に燃える主人公のテレビマンが、国際的なやらせの陰謀に巻き込まれるシーンがありました。
吉川: 『イッテQ!』のルーツは『天才・たけしの元気が出るテレビ!!』です。こちらは「明らかにウソだろう」という内容だったんですね。(インドの聖人で超能力者という設定の)ガンジーオセロとか。要はカッコよく言えば、ビートたけしさんたちの頭の中に浮かんだ“アート”だったんです。ウソを前提として作られていた。
でも、イッテQ!は最初から“リアル”な内容でした。面白い祭りや珍獣のためにレポーターが世界中に飛び立っていく。(イモトアヤコさんが)エベレストまで行って、本気で登ろうとして中断した。あの時、あの番組は絶好調だったのです。何千万円も使って中断するのだから、視聴者は信頼したと思います。あれは“リアル”だった。
こうやってリアルでやってきたのに、今回、リアルでないものを入れてしまった。だったら、(番組で)起こっていることをすべてリアルだと思っていた視聴者はどう感じるんだろうと。高視聴率番組故のおごりや、あとは放送するストックが無い、といった問題もあったのかもしれません。
――複雑な思いでテレビ業界の現状を見つめる吉川さんですが、今は日テレを退職し、ドワンゴで「ニコニコドキュメンタリー」を手掛けたり、早稲田大で映像ビジネスについて講義もしています。映像コンテンツの発信源が地上波からネットに移行しつつあるという見方もありますが、IT業界サイドの現状についてはどう感じますか。
吉川: 今の会社で僕は現場的な仕事をやらせてもらっていますが、(みんな)ロジカルな世界に生きてるな、と感じます。会議室で全部終わっちゃうようなイメージです。
僕のテレビ局時代は、「できるだけ会社にいるな」と言われていました。「暇な時は芝居を見ろ、街を歩け、田舎に行け」と。朝から晩まで面白いものを考えろ、というある種のシゴキです。
昔、出版社には朝から晩まで喫茶店で知らない人を呼んで話を聞くような面白い人がいました。ある種の「文化を生み出していく装置」が、出来上がっていたと思います。
IT業界の人も、もっといろんな人に会えばいいんじゃないかな。もちろん、ロジカルな世界も大事でしょうが。私のオフィス(東京都中央区の歌舞伎座タワー)は高層ビルだけれど、地面に立っていろんな人に会って……。それは洋食店のオジサンでもいい訳です。やはり、ITに私は“肉体”を感じませんね。
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