自動運転レベル3はファンタジーに過ぎないいきなり(2/3 ページ)

» 2019年06月18日 08時00分 公開
[日沖博道INSIGHT NOW!]
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 ほんの少しの間に生じたとんでもない事態に驚きながらも、蛇行していたクルマを追い抜いてから左路肩に自車を寄せたあなたは、自分が引き起こした事故の様子を呆然と見つめる……。

 さてこの場合、あなたはたぶん、「業務上過失致〇〇罪」(事故の深刻さによって〇の部分は変わる)といった名称の罪に問われる可能性が高い。自動運転システムにはあなたに運転介入を要請した記録があり、したがってクルマメーカーはあなたに全責任を引き渡したと主張するだろう。そして交通事故を担当する検事は「右隣に十分な注意を払わずに過度にハンドルを切った被告人の全面的過失だ」と主張するだろう。さてあなたは納得できるだろうか?

 先のSAEが示す「自動運転レベル3」のイメージはたぶん、航空機の自動運転システムのそれだろう。ある程度の高度を飛んでいる飛行機ならばそれでもいい。仮にシステムが責任放棄しても、墜落までには操縦士が機体を立て直す時間的余裕も多少はあるだろう。しかし狭い地上の道路を他のクルマと一緒に走っているクルマの場合、そんな悠長な話ではない。

 それに恐ろしいのは、人間の脳というものは注意力・集中力が一旦完全に弛緩してしまうと、一瞬ではフルに再起動するようにはできていないことだ。心理学的には「認知のトンネル化」(tunnel vision)と「反射思考」(reactive thinking)という状態に陥るそうだ(Charles Duhigg著“Smarter Faster Better”(日本語版『あなたの生産性を上げる8つのアイディア』)。

 前者(tunnel vision)は、トンネルの中にいると外界が見えなくなるように、「何かに集中しているがゆえに他のことに意識が回らなくなっている状態」をいう。強いストレス状態に置かれたときに発生しやすいとされ、最も容易で最も明白な刺激に意識が集中しすぎて、危険を示す周辺情報を見落としてしまうことが起きやすい。

 後者(reactive thinking)は、習慣に頼って(判断に頼ることなく)自動的に物事を進める状態だ。練習で何度も繰り返して体に覚え込ませたスポーツ選手が、試合中にいちいち考えて判断しなくとも瞬時に反応できるのも、我々の脳神経にそうした機能があるおかげだ。問題は、人がパニックに陥り判断力を失なった際には、何度も反復した反応行動を取りやすいが、それがベストの反応とは限らないということなのだ。

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