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改革に成功するリーダーと失敗するリーダーはどこが違うのか “きれいごとですまない仕事”をやり遂げるためにCIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(2/3 ページ)

» 2019年06月22日 00時30分 公開
[吉村哲樹ITmedia]

改革に対する反対や抵抗をいかに乗り越えるか

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中野 私もやっぱり、どうしても楽しくない話をしなくてはいけない場面はそれなりにあるんです。ERPへの統合なんて、個々のユーザーから見れば不便なことはたくさん出てきます。ですから、そういう楽しくない話をするときは、スライドにあえてネタを入れたりします。それもきっと、愛嬌の一種なのかなと。

 たとえ正しいことを言っていても、つまらない話し方だと記憶に残らないし、記憶に残らない話なんて誰も支持しませんから。ちょっとでも記憶に残るようにと、わざわざにゃんこの写真をネタとしてスライドに入れたりしています。それでクスリと笑ってくれて、少しでも皆が動いてくれるんだったら、しめたものだと思って。

友岡 そう、そこなんですよ。それににゃんこはかわいいですからね。かわいいは正義ですから(笑)。

中野 CIOになるには愛嬌というか、笑いのセンスも必要になるということなんですかね。総合芸術で笑わせるとかなんて難易度が高い仕事なんだ(笑)。笑いのセンスがない人は、なかなか大変ですね。頑張ってセンスを磨くんですかね。

友岡 松下幸之助の言葉でとても印象に残っているのが、「成功には運と愛嬌が必要だ」です。自身の成功の秘訣についても「愛嬌がないと皆に可愛がってもらえない。そして最後は運だ」と語っています。

 幸之助さんは、面接で「君は自分がついている人間だと思うか?」と聞いて、「ついてます」と答えた人しか採用しなかったそうです。つまり、根拠はないけど「自分は運がいい」とポジティブに物事を捉えられる人を採った。

 あともう1つ、幸之助さんがおっしゃっていたのが、「相手に配慮して、相手と同じ目線に立って話しなさい」ということでした。小さな子どもと話すときは、しゃがんで視線を低くするじゃないですか。それと同じ話ですね。

中野 ちなみに私は、かつてメーカーに勤めていたときは完全にそのスタイルをとっていました。同じことを言うにしても、相手によって語り口調を変えたし、セールストークも全部変える。そうやっていた時期が結構長くて、現在のようなストロングスタイルに切り替えたのは、実は今の会社に入ってからなんです。「世界で戦う仕組みを作る以上は、現場の事情には必要以上に配慮しない」と断言したんですね。

 企業のコーポレート部門は、それぞれの分野のプロフェッショナルであるべきだし、そうでないとグローバル市場では勝てるはずがありません。だから、「絶対に目線は下げません」と宣言したんです。

 今回、導入するERPの仕組みは、会社がグローバルで勝つためのものであって、皆さんの仕事を楽にすることを最優先にはできません。グローバルで戦える人材になっていけば、皆さんは絶対に転職市場で価値が上がりますよと。

 逆に、そうなってもらわないと、うちのような情報サービス企業は、グローバル市場ではあっという間に淘汰されてしまいます。参入障壁も低くてどんどん勢いがある新興企業が出てくるし、GAFAのような巨大プラットフォーマーの戦略次第で勢力図が一気に変わる業界です。

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友岡 おっしゃっていること自体は、極めてまっとうなお話だと思います。でも、「ストロングスタイルを貫かなければならない」というほど大げさなものでもないと思いますよ。最終的には結果が全てですが、最短で結果を出すための最良の手というのは、経営の局面や、さまざまな場面ごとに違ってきますよね。

 だから私も、別にいつもニコニコしているわけではなくて、強く出ることもあるわけです。もちろん、適度に感情をコントロールしながらではありますが、でもやっぱり妥協できない一線というものはありますから。その線引きはきちんと周囲にも分かるよう明確に示した上で、「そこを超えたらやっぱりダメだよ」ときちんと伝える。その点については、確かに安易に妥協するべきではありません。

中野 個人同士のコミュニケーションの中でコンセンサスを取っていくということに関しては、わりと相手に合わせるスタイルなんですけど、ただ、今、お話した「将来あるべき姿」「目指すべき方向」という点については絶対に譲れないので、「そこに関しては申し訳ないんだけど……」というふうなコミュニケーションの取り方をしていますね。

友岡 どうしても反対する人たちというのはいるわけで、最後に全員が納得してくれるわけでもないわけですが、それでもなんだかんだ言いながら過半数の人に「最初は反対してたけど、君の言う通りだったね」と言ってもらえればいいのかなと思っています。

 ERPに関しては、「入れて良かった」とユーザーに言ってもらえるのは、導入してある程度の時間がたった後なんですよ。

 以前、ヨーロッパ10カ国にある販売会社のシステムをERPで統合したんです。もともと各社でシステムもデータセンターもばらばらだったのをSAPで統合したんですけど、現場のほとんどの人が反対するんですね。

 「このまま各国でばらばらのやり方をしていてはダメだ。ヨーロッパ地域全体の総合力を発揮できるような仕組みにしなければ、絶対に勝てない」と言って押し切ったのですが、当時はやっぱり悪者扱いされるわけです。

 いまだに僕のことを「お前がヨーロッパをぼろぼろにした」と悪者扱いする人もいるぐらいです。でも、結局はそれをやったことで、後になって「やっぱりあのときERPを入れて良かったね」ということになったと僕は思っています。

中野 恐らく情シスやCIOに求められる価値って、分からない人には一生分からないでしょうし、それどころか恨まれ続けることすらある。だからといって、正しいことを言わずに諦めや妥協の道に逃げてしまうと、会社全体の仕組みが劣化するし、結局は自分たちの首を絞めることになってしまう。

友岡 そう、ジリ貧になってしまいます。そのときに「誰の言うことを聞いて、誰の言うことを無視するか」というのも1つのポイントですね。

 改革を起こそうとすると、「小山の大将」、つまり大きな山ではなくて小さな山の大将が一番反対するんです。だから「この人は小山の大将だな」と思ったら、その人とはできるだけけんかしないようにします。意見は聞くけれど、取り入れることはしない。現実的には、その人の既得権益を奪ってしまう局面が出てくるわけですからね。

 やっぱり、流血は避けられませんから。ERPプロジェクトでは当然、リストラもあるので、リストラを発表した日は襲われることを警戒して、自分の車までエスコートしてもらったこともあります。もう、命懸けなんですよ。改革って、そういうものなんですよね。

中野 システム統合やプロセス刷新は、きれいごとではないですよね。だからこそ情シス担当者は、少なくとも自分が担当している間はERPの刷新プロジェクトなどリスクの高い案件は全力で避けるわけです。とても大変だということを皆、知っているので。

 でも、それを回避してしまったら、「そもそも自分たちの価値は一体何なのか?」という話になってしまいます。「システムを含めた会社の仕組みを設計し、作っている」という気概がない情シスは、恐らく「改善」はできても「改革」はできないと思います。改革に踏み込めない情シスは、戦闘力が低いんですよ。

 だから尊敬もされないし、畏れられないし、ただの二級市民みたいな扱いを受け続ける。でも、仕組みの根幹を担う自分たちが二級市民では、会社の戦闘力に大きな影響が出てしまいます。スペシャリストの一人としては、決して膝を折るわけにはいかない。

友岡 そうですね。でも、やっぱり改革は、多くの人が「不幸になる」と感じるものなので、そういう人たちに対する憐れみの心を持つのが大切だと思います。だから、僕はそこに関しては、ストロングスタイルというよりは「申し訳ない……でも仕方ないよね」という態度で接するようにしています。

中野 そうですよね。皆の残業が増えてしまったり、面倒な調整ごとがたくさん発生しているのも見えていますし、辛かったり納得できなかったり不満や怒りを覚えるのもとてもよく分かります。それでもなお、なすべきことをなさねばならないという葛藤……このあたりの感情の制御は、本当に大変ですね。

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