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» 2019年04月26日 07時00分 公開

CIOへの道:日本郵便の“戦う専務”が指摘――IT業界の「KPI至上主義」「多重下請け構造」が日本を勝てなくしている (1/3)

先進国の中でもIT活用が遅れている日本。その原因はどこにあるのか――。日本郵便の“戦う専務”鈴木義伯氏とクックパッドの“武闘派情シス部長”中野仁氏が対談で明らかにする。

[吉村哲樹, 後藤祥子,ITmedia]

この対談は

クラウド、モバイル、IoT、AIなどの目覚ましい進化によって、今やビジネスは「ITなしには成り立たない」世界へと変わりつつあります。こうした時代には、「経営上の課題をITでどう解決するか」が分かるリーダーの存在が不可欠ですが、ITとビジネスの両方を熟知し、リーダーシップを発揮できる人材はまだ少ないのが現状です。

今、ITとビジネスをつなぐ役割を果たし、成功しているリーダーは、どんなキャリアをたどったのか、どのような心構えで職務を遂行しているのか、どんなことを信条として生きてきたのか――。この連載では、CIO(最高情報責任者)を目指す情報システム部長と識者の対談を通じて、ITとビジネスをつなぐリーダーになるための道を探ります。


日本郵便 専務執行役員 CIO 鈴木義伯氏プロフィール

NTTデータ社で金融関係のシステム開発に従事。主に地方銀行の基幹系を中心に企画・開発、運用まで一連の作業を経験した。2006年2月東京証券取引所のCIOに就任した。株式証券取引システムarrowheadの企画開発を進め高速取引を実現し、株式取引の流動性向上に貢献した。2017年4月から現職。


クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 / AnityA 代表取締役 中野仁氏プロフィール

国内・外資ベンダーのエンジニアを経て事業会社の情報システム部門へ転職。メーカー、Webサービス企業でシステム部門の立ち上げやシステム刷新に関わる。2015年から海外を含む基幹システムを刷新する「5並列プロジェクト」を率い、1年半でシステム基盤を構築し直すプロジェクトを敢行した。2018年、AnityAを個人として立ち上げ、代表取締役に就任。システム企画、導入についてのコンサルティングを中心に活動している。システムに限らない企業の本質的な変化を実現することが信条。


 2005年、システム障害が起こって一時的に取引が全面停止するという事態に陥った東京証券取引所。世間の大バッシングの中、そのシステム刷新をやってのけたのが、現在、日本郵便の専務でCIO(Chief Information Officer:ITとビジネスをつなぐ役割を担う情報システム部門担当役員の名称)を務める鈴木義伯氏だ。

 “決して落としてはならないシステム”を構築するという伝説の「arrowheadプロジェクト」の舞台裏に迫った前編に続き、中編では、「先進国の中でも日本企業のIT活用が進まない理由」について、鈴木氏とクックパッドの情シス部長、中野仁氏が対談で明らかにする。

日本のIT産業が抱える「構造的な問題の根深さ」

Photo 日本郵便 CIOの鈴木義伯氏(画面=左)とクックパッド 情シス部長の中野仁氏(画面=右)

中野: 先ほどもお話ししたように、私はもともと金融系のSIer(企業のIT導入支援、コンサルティングを請け負う会社)にいたのですが、その後、外資系パッケージベンダーで働いた後に、ユーザー企業に移りました。メーカー系企業の情報システム部門で働いた後、この4年ほどはWeb企業の情報システム部門で仕事をしてきました。

 ここ2年間はレシピサイトのクックパッドで、「海外展開を見据えた社内システム統合」の仕事を手掛けています。人事、会計からCRM(顧客満足度を上げることで収益拡大を目指す仕組み)、ID管理などのアカウント周り、データ連携周辺も含め、海外ビジネスに耐え得るスケーラビリティを備えた統合システムを構築してきました。

 今、振り返ると、外資系企業と海外ビジネスを持つメーカーでの勤務経験はとても役に立ちましたね。たぶんその経験がなければ、クックパッドでの施策の骨子までいきつかなかった気がします。

 実際に企画段階でベンチマークにしたのが、北米の勝ち組グローバル企業でした。海外のグローバル企業のシステム構成を参考にしながら、基本的に業務システムはフルクラウドで構成しています。導入した製品も、Workday(データに基づく経営判断を迅速に行うための人事、財務向けシステム)の会計や、クラウド版Informatica(経営資源の要素となるデータを統合するためのシステム基盤)など、海外ではデファクトスタンダードで使われているものの、日本国内では初導入となるものも多く、実装ではかなり苦労しました。

 北米の勝ち組企業は、どこもシステム構成が比較的似ているんです。社内向けの業務システムはコモディティ化した製品をなるべく早く入れて、海外へのロールアウトもどんどんやっていく――というコンセプトでシステムを設計しています。

 このこと自体は頭の中では何となく理解していましたが、実際に自分で実装してみてあらためて「なぜ外資系企業がこのような戦略をとるのか」「どうして日本企業のシステムはオンプレミス(情報システムのハードウェアなどを自社で運用する形態)から脱却できないか」ということが何となく見えてきたような気がしました。

鈴木: なるほど。どんなことが分かりましたか?

中野: グローバル企業は、とにかく「世界でビジネスを展開し、成功させる」という一点に絞ってシステム構成や業務プロセスを構築しているということですね。逆に日本企業は、海外展開している企業であっても、システムをグローバルで統一しているところは少ない印象です。買収した企業のシステムをそのまま使い続けているケースも多いですし、「海外で勝つ」ということの意味合いが、北米の勝ち組企業とは根本的に違いますね。

 一方で、国内のベンチャー企業は、日本で勝っていても海外に出て行って勝つのはなかなか難しい。事業の急成長にバックエンドが追い付かないのと、バックからミドルオフィスのシステムを中心に“スケールしない構造になっている”ケースが多い印象を受けます。国内でも厳しいのに、ちょっと海外に戦線を伸ばすとすぐに破綻する。井の頭公園のスワンボートで太平洋を渡るようなものだなと思うのです。

鈴木: 興味深いですね。ちなみに私は、ちょっと見方が違っていてね。日本企業のIT戦略が海外と比べて立ち遅れている原因は、「日本のITの構造」に問題があると思うわけです。

 ユーザー企業は、ITベンダー(企業向けのサービスやシステムを提供する会社)やSIerに依存しすぎていて、自主性が損なわれている。それが一番の問題ですよ。それと、「パートナー企業が変わる必然性が、実はない」というふうになっているのも大きな問題です。

 パートナー企業から見ると、これまでの構造を変え、お客さまに「変化したコモディティの商品」を提案すると、むしろ売り上げが落ちてしまう。売り上げが落ちるから、積極的には提案しないんです。その結果として、日本企業はいつまでたっても海外企業のようにITを有効活用することができない。ITベンダーやシステムインテグレーターが、このあたりの意識をなかなか変えられないのは、由々しき問題です。それが日本企業の変化を阻害している要因の一つだと思いますね。

 この問題は、相当根が深いですよ。そのような業界構造の中、どうやったら企業がITを使って変わっていけるか――。これはもう、「自分(ユーザー企業のIT部門)が強くなる」しかありません。

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