いやだったのはまちの愛国者。下宿探しをしていると、「スパイのことばをやっているやつには、部屋を貸せない」という善良なじいさんがいた。
学校のテキストの下読みをしていて、前に立っている人品いやしからぬ紳士から「恥を知れ」と、平手打ちを食わされたというクラスメイトの話を聞いて、じっとこらえるのは楽ではなかった。
いくらなんでも、やがて戦争は終わる。それまで生きていられないかもしれないが、いったんやると決めたことを、都合がわるくなったから、やめます、というのはいかにも卑劣である。ひそかにそんなことを考えて、いやな思いを振り捨てた。
おかしかったのは、英語を捨てて高等部などへ入学しなおした人たちである。もとは英語をやっていたのだからといって、戦後、英語にもどってきて、米軍のアルバイトをやり、チョコレートなどをもらって喜んだ連中がいたことである。
英文科に籍をおきながら、米軍の雑役をアルバイトにして、ときめいた若者がすくなくなかったことである。
にがにがしく思っていたが、天は正直である。どういう罰を与えたのか分からないが、あわれなことになるケースが続出したのである。あわれというにはひどすぎる。
自殺するのである。どうして命を断つのか、想像もつかない。すくなくとも、学生や若い者としては法外な収入があったはずである。しかし、死ぬほどのことがあったらしい。
われわれ意気地なしは、米国人にこき使われるより、食べるものにこと欠いても、意地を張って旧敵の文化を学んでいたから、死ななくてすんだのかもしれない。
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