Libraの2つの顔 超国家企業連合か、暗号通貨の「伝統」か(4/6 ページ)

» 2019年06月30日 23時40分 公開
[星暁雄ITmedia]

暗号通貨の「伝統」を踏襲する側面

 Libraのもう1つの顔は、ビットコインを起源とする暗号通貨の伝統を踏襲している側面である。前述したように、Libraの基本設計には、誰にも邪魔されない送金が可能となる、非中央集権型の仕組みが組み込まれている。

 実は、今までの暗号通貨分野のキーパーソンは、Libraに対してあまり好意的ではない。例えばイーサリアム共同創設者で、イーサリアムを推進する事業会社ConsenSysの創設者であるジョセフ・ルービン氏は、テクノロジー系メディアQuartzに寄稿し「Libraは非中央集権のヒツジの皮をかぶった中央集権のオオカミだ」だと批判する。これはLibraの2面性を批判的に指摘したものといえる。

 Libraは事実上Facebookが開発し、同社が立ち上げたLibra協会が運営する形となる。そしてLibra協会の参加各社が拠出した資金は、Libra協会を通して信託されることになる。そして発足時点のLibraブロックチェーンは「許可型ブロックチェーン」と呼ぶ仕組みとなる予定だ。これは1000万ドル以上の資金を供出した企業、団体や一部の大学などが限定してブロックチェーンのノードを運営する権利を得るというものだ。Libra協会というグローバル企業連合への信頼抜きには、Libraは成立しない。

Libra協会は参加者の投票で決定する仕組みを取る

 一方、ビットコインもイーサリアムも非中央集権の思想に基づき設計されている。これは特定の個人や企業を信用するのではなく、多くのノード(サーバ)で動くソフトウェアから構成し、不特定多数が運営に参加するブロックチェーンと、それを動かしているアルゴリズムを信用する設計思想である。非中央集権の設計では特定のミドルマン(仲介者)を信頼する必要はない。ブロックチェーンのノードは誰でも立ち上げることができる。Libraはこのような非中央集権の暗号通貨とは似て非なる存在というわけだ。

 ただし、Libraのホワイトペーパーには、5年以内に「非許可型ブロックチェーン」に移行すると述べている。これは、ビットコインのように誰でも参加できる非中央集権型のブロックチェーンに移行するという意味だ。とはいえ現代のテクノロジー企業にとって「5年以内」という長期の約束は、はるか彼方の遠い未来だ。この約束が本当に果たされるのか、前出のルービン氏は疑問の声をあげている。

Libraホワイトペーパーでは、非許可型システムのメリットは大きいが、現在は安定性とセキュリティで実績のあるソリューションがないとしている。許可型ネットワークの懸念事項を軽減しながら、非許可型への移行が不可欠だとしている

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