コラム
» 2019年06月30日 23時40分 公開

Libraの2つの顔 超国家企業連合か、暗号通貨の「伝統」か(2/6 ページ)

[星暁雄,ITmedia]

 その中には、クレジットカードのVisaとMastercard、送金サービスのPayPal、ライドシェアのUberとLyft、仮想通貨交換所のCoinbase、ネットオークションのebay、音楽配信のSpotifyなどが加わっている。このようなグローバルな事業会社の間でLibraが使われるなら、Libraは超国家的な大きな経済圏を形成する可能性がある。興味深いのは5社のベンチャーキャピタルや、「女性のための金融包摂」を掲げる非営利団体Women's World Bankingなどの投資を事業とする企業、団体も参加していることだ。Libraのビジネスに投資先としての勝算を見ているのだろう。

Libra協会の初期メンバー

 警戒が強い理由の2点目として、日本ではいまひとつ実感しにくいが、米国や欧州各国ではFacebookへの視線は厳しい。特に、英企業ケンブリッジ・アナリティカをめぐるスキャンダルは悪名高い。これはケンブリッジ社がFacebookのユーザー情報を不正に入手、利用して米大統領選や英国のEU離脱投票に関する世論操作を行った疑いが持たれている事件である。Facebookの影響力は強すぎる上に、ユーザー情報の扱いが不適切だとの批判の声は多い。

 3点目に、Libraの構想は大胆で、しかも強力なチームを抱えている。ハイテク企業による決済、送金のサービスであれば、以前からあった。中国でキャッシュレス決済が盛んなことは有名だ。最近は、日本でも多くのキャッシュレス決済サービスが登場している。米国では個人間送金アプリが普及しているし、スウェーデンでは現金より送金アプリの方が利用率が高い。

 だがFacebookが打ち出した構想は、そのような既存サービスの枠を越えた大胆なものだった。1社が提供する決済サービスにとどまらず、誰でも参加できるオープンな送金ネットワークとして設計されているのだ。

 ビットコインやイーサリアムのような、有力な暗号通貨の「伝統」的な仕組み──つまり仲介者が存在せず、誰にも邪魔をされない送金が可能な非中央集権のブロックチェーン技術のメカニズムを研究し、企業連合にとって使いやすい形に作り直したものだ。当面は企業連合による運営だが、将来的には、誰でも参加でき、誰にも邪魔できない非中央集権の仕組みに移行する構想である。そうなれば、巨額の資金を自由に動かせるオープンな送金ネットワークが出現することになる。

 誰にも邪魔されない送金が可能であることは、犯罪者やテロリストにとっても便利だ。そこで世界的な金融規制の枠組みでは、仮想通貨交換所のKYC(本人確認)などの徹底により、不正利用を防ぐ方向にある。Libraでも、サービスを利用するためのウォレットではユーザーのKYCを義務付ける計画だ。とはいえ、誰にも邪魔されない送金が可能であるという、暗号通貨の「伝統」を踏襲したLibraの設計が、各国の金融規制当局から見て「要警戒」と見られることは避けられない。

 Libra協会の構想や、Libraのプロトタイプはすでに動いていることを踏まえると、事業開発チームもソフトウェア開発チームも高い能力を備えていると推定できる。大胆な設計と、実行能力のあるチームによる構想が突然浮上したわけで、各国の金融規制当局が警戒心を持つのはもっともだといえる。

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