Libraの2つの顔 超国家企業連合か、暗号通貨の「伝統」か(3/6 ページ)

» 2019年06月30日 23時40分 公開
[星暁雄ITmedia]

Libraの特徴 中央集権と非中央集権をうまくバランス

 Libraの意味は「天秤(てんびん)座」だ。あたかも天秤がバランスを取ることで物の重さを量るように、Libraは通貨発行量と資金量(リザーブの金額)をバランスさせることで価格を保つ設計だ。それだけではなく、企業連合による運営(中央集権)と、非中央集権型の技術をうまくバランスさせる試みのように見える。

 ここで言葉の整理をしておくと、Libraは、暗号通貨の名前であり通貨単位である。暗号通貨Libraを保持して動かす基盤技術を、Libraブロックチェーンと呼ぶ。このLibraブロックチェーンは2019年6月の現時点でプロトタイプが動いている。Libraホワイトペーパーによれば、計画通りに進んだとすると2020年前半、約1年後にLibraが実運用を開始し、使えるようになる。

 Libraの価値は、通貨バスケット、つまりドルやユーロなど複数の法定通貨を組み合わせた資産に連動する。したがって、例えば円とLibra、ドルとLibraの交換レートは日々変動する。Libraについて、価格が安定した「ステーブルコイン」であると説明する記述を見かけることがあるが、それは違う。Libraホワイトペーパーにはステーブルコインという記述はなく、逆にドルなど法定通貨建て価格は常に変動すると明記されている。Libraには価値を裏づける資産があるので、ビットコインなど多くの暗号通貨に比べれば価格はある程度安定している。しかし交換レートは日々変動することになる。

 Libraの準備を進めてきたのはFacebookだが、実際にLibraの送金サービス(ウォレット)を提供するのは同社子会社のCalibraである。スマートフォンで手軽にLibraを送金できる専用アプリ「Calibraウォレット」のイメージはすでに公開されている。このほか、メッセージアプリのMessengerとWhatsAppでもウォレット機能を使えるようにする計画だ。

 現時点の情報を見ると、Libraには2つの顔がある。今までの暗号通貨と異なり企業連合による企業連合のための暗号通貨として作られた側面と、今までの暗号通貨の「伝統」──非中央集権の設計思想を踏襲する側面とを備えているのだ。

企業連合のための暗号通貨としての側面

 Libraが今までのビットコインやイーサリアムのような暗号通貨と大きく異なる点は、Facebookが抱える27億人のユーザーが潜在的な利用者となることだ。Facebookが本気になれば、既存ユーザーからの誘導により短期間で大きなユーザー数を獲得できる。今までの暗号通貨とは、文字通り何桁も違うユーザー数を獲得できることは間違いない。

Facebook子会社のcalibraはLibraを、ブロックチェーンを使い、価値がステーブルで、グローバルに利用できる暗号通貨だとしている

 前述のLibra協会の存在も大きい。Libra協会は100社を集める計画で、Facebook/Calibraはその1社(投票権は1%)になると説明している。1000万ドル以上を拠出できる100の大企業や団体が集まりLibra経済圏を作る──実現すれば大きなインパクトがある話だ。

 それだけに、各国の規制当局の追及は厳しくなると見ていいだろう。ただしFacebookも、規制当局との交渉が必要なことは認識し、準備を進めていたはずだ。今後しばらくの間、Libraをめぐり規制側と推進側の議論が盛んに繰り広げられるだろう。

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