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人事部は、AIによって消滅するか?付き合い方(3/4 ページ)

» 2019年07月02日 06時00分 公開
[川口雅裕INSIGHT NOW!]
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人事は、AIとどう付き合うのか?

 将棋界を見れば、AIは競争相手や脅威などではなく、人間にとって十分な利用価値がある共存可能な相手であり、また、私たちの視野を広げ、発想を豊かにしてくれるツールでもあり、さらに、人間としての存在価値やありようを明確にしてくれる存在である、と考えられる。であれば、人事という仕事においても、AIを上手に活用できれば、人間にとっては難解な、人材や組織に関する複雑な状況を読み解かせてみたり、採用・配置・評価・処遇などに関するこれまでの人事の常道とは異なる発想を得たりできるかもしれないし、その結果として、人事マンの真の存在価値というものが改めて発見できるかもしれない。

 俯瞰(ふかん)してみれば、現在の日本企業の人事部には手詰まり感が見て取れる。トヨタのトップが最近「終身雇用は、もはや難しい」と口にしたように、長期・安定雇用をインセンティブにはできなくなってきた。長きにわたる経済の低迷や悲観的展望などによって、企業は賃金を抑制しつづけており、報酬をインセンティブにできない状況でもある。定年の延長は人の新陳代謝を遅らせるから、若年層の意欲を削ぎがちで、組織も活性化しにくい。長時間労働の是正は、給与(残業代)の減少に直結するためになかなか進まず、生産性の高い仕事によって就業後の生活を楽しめるような働き方は実現が容易ではなさそうだ。人手不足の中で退職者が出るのを防ごうとするから、実力や成果に基づくメリハリの利いた評価・処遇には及び腰にならざるを得ない。人事部としては組織活性を目指して自由で寛容な風土を作りたいが、「それよりもコンプライアンスだ」と経営や担当部門はルールを作り、監視・チェックを強化して邪魔をする。

 人事部がこのような手詰まり状況を打破するために、AIの活用は一つの方法として期待できそうに思う。将棋界がそうであったように、その手があったか、という思わぬ視点や発想を提供してくれる可能性がある。ただしそのためには、2つの問題をクリアしなければならない。

 一つ目は、「人事の目的は何か」を設定することである。将棋はルールが明快であり、「勝つ」ことが目的である。(プロ棋士はファン目線を大切にするので、単に勝つだけでなく、勝ち方や負け方にもこだわりがあるが。)一方、人事の目的は設定が容易ではない。もちろん「外部環境に対して組織と人材を最適化する」という人事部の使命はどの企業においても共通だが、具体的な目的は多様に設定が可能だ。どの上司にどの部下をつけるかと考えるとき、「軋轢を起こさない関係」という目的もありえるし、「互いを補い合える」「シナジーが起こる」「成果が出やすい」といった目的もありえる。どのような人材を採用するかと考えるときも、「当社になじむ」「当社にはいないタイプ」「当社にはない才能」「即戦力の実務家」「将来の幹部候補」などいろいろな目的の設定がありえる。目的の設定はAIにやらせることではなく、人間の役割だ。人事部の様々な仕事において、その目的は何なのかを明確にしないままでは、AIに何をさせればいいかが分からない。

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