3年経ってもふっくら! 「奇跡のパンの缶詰」の意外な行き先大手運輸会社と連携(3/4 ページ)

» 2019年07月05日 08時00分 公開
[菅聖子ITmedia]
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「救缶鳥」プロジェクトができるまで

 賞味期限を迎える缶詰の使い道について、考えるきっかけになった出来事がある。それは、2004年に起きたインドネシアのスマトラ島沖地震だ。その直後、スリランカで日本語教師をしている秋元さんの知り合いから連絡があった。

 「津波で流されて何もないので、売れ残りのパンの缶詰を送ってくれないだろうか」

 ちょうど新潟中越地震が起きたばかりで、社内の缶詰は全て出払った後。それでも周囲に声をかけ、賞味期限が残りわずかなものも含めて1000缶を送った。被災地でとても役立ったとの知らせを聞き、秋元さんは気付く。日本では処分に困る賞味期限の近い缶詰も、必要とされる場所に持っていけば心から喜んでもらえるのだ、と。

 この気付きは、缶詰を無駄にしないための行動へとつながっていった。

 もともとアキモトでは、パンの缶詰が完成したときから寄付を続けてきた「ハンガーゼロ(NGO日本飢餓対策機構)」という団体があった。ハンガーゼロは現在18カ国55の協力団体と共に、アジア、アフリカ、中南米など、開発途上国でさまざまな活動を行っている。彼らに協力してもらい、賞味期限の残り少なくなった缶詰を現地に運べないだろうかと考えたのだ。

 秋元さんは、ハンガーゼロの理事長である清家弘久さんと話し合い、パンの缶詰の回収方法、現地に運ぶ方法、輸送費をどこが持つか、などの仕組みを考えた。そしてでき上がったのが次の「保存食リユースシステム」だ。

(1)パンの缶詰を2年間備蓄

 アキモトのパンの缶詰の賞味期限は3年。そのうちの2年間は必要な場所で備蓄食として保管する。

(2)回収する

 企業や自治体など大口の顧客は、アキモトでリストが管理されている。2年後に声をかけて古い缶詰を回収し、新しい注文があった場合は同時に届ける。回収分の送料はアキモトが持つ。

(3)義援先へ輸送

 回収した缶詰はハンガーゼロの拠点である大阪に集められ、船便に乗せて海外に輸送する。届け先を決めるのはハンガーゼロだが、災害が起きたときは臨機応変に決める。海外への輸送費はハンガーゼロが持つ。

(4)義援先へ届く

 飢餓に苦しむ人びとを救う食料として、現地に届けられる。

 当初は大口顧客だけの取り組みだったが、後に個人ユーザーにもこのシステムが取り入れられた。大口の場合はトラックを一度出せば済むが、個人の場合は回収に手間もお金もかかる。しかし「食品を無駄にせず、飢餓地域に届けたい」という秋元さんの熱意が周囲の人を動かし、大手運輸会社の組織的な協力を得て、最小限の送料で回収するシステムが整った。

 大口顧客の回収と、個人顧客からの回収。両方がそろって「救缶鳥(きゅうかんちょう)プロジェクト」と名付けられ、他に類を見ない食品のリユースシステムが動き始めた。パンの缶詰が、世界へと羽ばたき始めたのだ。

phot 救缶鳥プロジェクトは東日本大震災時にも奏功した。ブリヂストンも協賛してくれた 
phot パンを食べる被災地の子ども。福島県郡山市にて

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