現在まで、救缶鳥プロジェクトを通してパンの缶詰が届けられた国は、イラン、イラク、インドネシア、スリランカ、フィリピン、ジンバブエ、バングラデシュ、台湾、ハイチ、タイ、コートジボワール、タンザニア、ケニア、エスワティニ(スワジランド)、ネパール、バヌアツの16カ国。送った缶詰の総数は30万缶以上になる。
秋元さんは、ただ送るだけではなく、ハンガーゼロのスタッフと共に10カ国ほど訪問し、現地の人に直接手渡している。それぞれの国で訪問するのは、小学校や母子健康センターなど子どもたちのいるところだ。
「この缶詰、何が入っていると思う?」
秋元さんが言うと、どこの国でも子どもたちは興味津々で見つめてくる。缶を開け、ちぎってひと口ずつ味見をしてもらうと、笑顔がパッと広がっていく。何度もそんな場面に立ち会ってきた秋元さんは語る。
「子どもたちの満面の笑顔を見ると、この活動をしてきてよかったと思います。賞味期限を残して回収することに、多くの日本人が賛同してくれています。缶にはメッセージ欄を作っているので日本から手書きのメッセージが書かれていることも多い。日本人のやさしさを、海外に届けることができているんです」
もちろん、パンの缶詰が送られるのは海外だけではない。11年の東日本大震災、16年の熊本地震、18年の西日本豪雨など、日本各地の災害被災地にも届けられてきた。保存ができるやわらかくて甘いパンは、多くの人の心とおなかを満たしてきたのだ。
町の小さなパン屋だったアキモトは、世界にパンを届けることができる会社へと成長した。「救缶鳥」プロジェクトは、今や食品ロスを減らすための取り組みや、持続可能な開発目標(SDGs)を達成するための活動の先駆けとして多くの人々に認識されている。
秋元さんは、最初から大きなことを目指していたわけではない。そのとき足元にあったミッションをすくいあげ、壁にぶつかっては乗り越えて、諦めず試行錯誤してきた、その結果が今につながっている。
菅聖子(すが せいこ)
広島県生まれ。自由学園卒業。 出版社勤務を経てフリー編集者、ライターに。著書に『小さなパン屋が社会を変える 世界にはばたくパンの缶詰』『世界を救うパンの缶詰』『シゲコ!―ヒロシマから海をわたって』『子どもが幸せになる学校―横浜サイエンスフロンティア高校の挑戦』『むのたけじ100歳のジャーナリストからきみへ』『すてねこたちに未来を 小学4年生の保護ねこ活動』など。
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