国鉄と共に消えた「チッキ便」 新たな枠組みで復活させたい杉山淳一の「週刊鉄道経済」(3/5 ページ)

» 2019年07月05日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

背景は「自動車の効率輸送のための規制緩和」

 なぜ列車が選ばれなかったか。「特急電車は大きな台車を乗り入れるには扉が狭い」「普通列車では間仕切りが必要で乗客案内上ふさわしくない」「そもそも東京駅の停車時間が短く、荷役に適していない」などが考えられるけれども、最も大きな理由は「列車とバスでは、貨客混載の政策的扱いが異なる」からだ。おそらく今回の事例では「列車にするかバスにするか」という選択は行われなかっただろう。「バスのデッドスペースとなったトランクルームを活用できないか」が主眼だ。

 きっかけは国交省が2017年8月7日に通達、9月1日に施行した「旅客自動車運送事業者」と「貨物自動車運送事業者」に対する規制緩和だ。路線バス、貸切バス、タクシーが貨物輸送を実施できるようになり、トラックが旅客輸送できるようになった。これは「貨客混載を通じた自動車運送業の生産性向上」を目指したプランだ。

photo 自動車運送業を効率化するため、旅客と貨物の「かけもち」を推進する(出典:国土交通省

 ドライバーの人手不足、人口減少による輸送の落ち込みによって、物流事業の持続可能性が低下している。従来のように、旅客輸送事業者と貨物輸送事業者の許可を区別したままだと「定員に満たないバス」と「極端に荷物が少ないトラック」が増えて効率が良くない。CO2の削減にもならない。そこで「バスに貨物を乗せる重量の上限を上げる」「同じ事業者が旅客と貨物を手掛ける場合、運行管理者などが両方を兼務できる」という通達を出した。

 実は路線バスについては従来も貨物輸送が可能だった。道路運送法第82条により「一般乗合旅客自動車運送事業者は、旅客の運送に付随して、少量の郵便物、新聞紙その他の貨物を運送することができる」とされた。ただし、上限重量については通達で350キロ未満とされた。これは軽貨物自動車の積載量を参考とし、貨物運送事業に配慮した数値だ。この350キロ未満については貨物運送事業の許可は不要で、それは今後も変わらない。

 しかし、新たな通達によって、バス事業者が貨物自動車運送事業の許可を得れば、350キロの上限は引き上げられ、「(車両乗車定員数−乗車人数)×55キロ」となった。定員50人のバスで乗客が40人の場合、差し引き10人×55キロで、550キロの貨物輸送ができる。高速路線バスの場合、補助席15席を含む合計定員55人のバスなら、補助席に客を乗せない営業方針であれば、常に15人×55キロ、825キロの輸送ができるというわけだ。

photo かけもち輸送のイメージ(出典:国土交通省

 JR関東バスの公式サイトを確認したところ、貨物自動車運送事業の許可を得ていないようだ。従って、許可不要な350キロ未満の範囲内で輸送を実施するとみられる。それ以上の貨物がある場合は、増便で対応できるだろう。実証事業によって手応えがあれば、貨物自動車運送事業の許可を取得して貨物輸送事業に本格参入するかもしれない。この方式は乗客減に悩む高速乗合バス事業者にとっても大いに参考になるはずだ。

photo 路線バス貨客混載のメリットとデメリット(出典:国土交通省中部運輸局

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