いまなぜ増える海外客船の日本発着クルーズ観光地としての日本(2/4 ページ)

» 2019年07月12日 13時15分 公開
[長浜和也ITmedia]

上質なクルーズで日本人利用数4倍を目指すキュナード

 キュナード・ラインは、クイーン・エリザベスによる日本発着クルーズを2018年に1回、19年には2回、そして、20年には一気に7回まで増やす。また、日本人のキュナード・ライン利用者数を21年には今の4倍にするという目標を掲げている。

キュナード・ライン コマーシャル・ディレクターの浅井信一路氏

 クイーン・エリザベスの日本発着クルーズを一気に増やす理由は「インバウンド需要」(浅井氏)だ。海外から見た旅行先としての日本の魅力は依然として高い。

 休暇取得事情から海外旅行の経験が多い欧米人にとって、欧州、北米はもちろんのこと、航空路的にアクセスしやすい北アフリカや南米、インドから東南アジアも「既に訪れたことがあるエリア」になりつつある。これに対して、日本は現代においても、「まだ訪れたことのない遠いかなたの地」であり、旅の目的地として関心を持つ人が増えているという。

 また、以前は「日本の物価は高い」という理由で敬遠されるケースも多かった(浅井氏によると「04年まではそのように意見をよく聞いた」という)が、現在は口コミやSNSによって「物価が安い国」という認識も進んでいる他、治安や衛生状態など、「物価が安くて安心して観光を楽しめる清潔な先進国」という認識が高まっている。

日本でも抜群の知名度を誇るクイーン・エリザベス。現在運航しているのは2010年に就航した三代目(写真提供:キュナード・ライン)

 さらに、海外から日本を訪れる観光客において、東京、京都、大阪といった「定番」だけでなく、地方を訪れてその土地の伝統と文化を“体験”したいという需要が増している。しかし、陸路移動では限られた期間で限界がある他、日本には陸路によるアクセスが難しい場所も数多くある。

 そこで、日本各地を周遊し、多くの地方を訪れる手段としてクルーズを検討する海外旅行者が増えているという。客船なら陸路移動についてまわる乗り換えや煩雑な料金支払いはなく、宿泊もその都度変更する必要はなく、かさばる荷物なしに地方を巡ることができる。そして、船に戻れば、食事や言語など(特に英国人にとって)母国とほぼ同じ環境がそろっている。

 加えて、欧米人に知名度が高いキュナード・ラインの伝統ある客船で船旅を楽しみたい、という動機も高い。「船は単なる足というだけでなく、食事であったりフォーマルナイトであったりと、あこがれの存在であるキュナード・ラインが提供する体験がキモ。キュナード・ラインは、日本での体験とともに、より豊かな船旅を提供したいと考えている」(浅井氏)。

 一方で、日本人を対象としたクルーズ市場は、依然として「費用が高い」「期間が長い」と敬遠する人が多く、実際、それが多くの日本人に「クルーズは手の届かないもの」と認識させているとみている。

 浅井氏はこの現状を変えるために、日本発着クルーズの回数を増やすことでクルーズの周知を徹底するなど、クルーズ業界全体で取り組む必要があると述べる。ただ、日本人がクルーズを敬遠する大きな理由の1つ、長期休暇を取得するのが難しいという点に対して、有力な手だては見つかっていない。これを解決する可能性がある「短期間日本発着クルーズ」は、「海外から来日して乗船する利用者は、ある程度長い期間のクルーズを期待しているので、短期間のクルーズを提供するのは難しい」(浅井氏)としている。

 先に述べたように21年までに日本人の利用者を4倍にする目標を掲げているが、この実現には日本発着だけでなく海外航路を含めたクルーズ利用者を増やすブランドの周知拡大が必要だ。「クルーズ寄港先の魅力やクルーズの魅力を知ってもらうとともに、キュナード・ラインの船や船旅そのものの魅力も広く伝えていく」(浅井氏)。

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