いまなぜ増える海外客船の日本発着クルーズ観光地としての日本(3/4 ページ)

» 2019年07月12日 13時15分 公開
[長浜和也ITmedia]

日本人と日本クルーズ航路に最適化するコスタクルーズ

 コスタクルーズは、2016年から日本発着クルーズに配船している。日本発着クルーズに参入している海外船会社は他にもあるが、コスタクルーズが他の海外船会社と異なるのは4月から10月といったクルーズシーズン全期を通して日本発着クルーズを実施しているところだ。他には、コスタクルーズに先んじて参入したプリンセスクルーズとスタークルーズぐらいしかない。

 格式と伝統を訴求するキュナード・ラインとは対照的に、陽気な雰囲気でくつろぎながら過ごせる船旅を提供する。コスタクルーズは、シーズン前半において東京港を拠点にクルーズを実施するが、17年の東京港客船入港回数全13回の内コスタクルーズの「コスタ・ネオロマンチカ」入港回数は7回、同じく、18年は全29回中24回を占める。

コスタクルーズ営業部長の小早川隆信氏

 コスタクルーズも、日本発着クルーズに参入する理由として、「日本クルーズ市場の潜在力」を掲げる。日本の人口とGDPに比して、クルーズ人口は他の同程度の経済指標を示す先進国と比べてあまりにも低すぎる。

 これは、海外船会社に共通する認識だと小早川氏は説明する。参考までに12年における国家人口をクルーズ人口で割った値は米国が4.3%、英国が2.79%、日本は0.17%。14年における一人当たりのGDPをクルーズ人口で割った値は、米国が206、英国が35、日本が6となっている。

 このような事情から海外船会社は日本のクルーズ市場に対して潜在力、もしくは、伸びしろを期待しているという。「コスタクルーズとしては、日本のクルーズ人口100万人は十分検討していい数だと考えている」(小早川氏)

神戸港に停泊するコスタ・ネオロマンチカ。黄色い煙突の姿がユニーク

 コスタクルーズの日本発着クルーズには、もちろん海外から来日した船客も多い。しかし、海外船客と日本人船客の割合は3:7と日本人の利用が多い。この数値にもあるように、コスタクルーズの日本発着クルーズに対する取り組みの1つに「日本人に合わせたクルーズを提供する」という考えがある。

 「高額で長期間」という、日本人に根付いたクルーズ感に対するイメージを変えるため、1泊1万円で移動、食費、宿泊付きと実はコストパフォーマンスが高く、それでいて、船内は海外(「海の上のイタリア」がコスタクルーズのコンセプト)にいるような雰囲気でショーやフォーマルなディナーといった非日常的な体験ができる。

 そして、長期休暇が取りにくい日本人に合わせて4泊5日、または、3泊4日のショートクルーズも多数提供している。「これまでクルーズ各社が訴求するメインターゲットはシニア層だった。しかし、カジュアルクルーズにおける本来のボリューム層は30〜40代のファミリー層。そこにいかにして訴求していくかが今後の課題」(小早川氏)。

 本拠地が欧州にあるコスタクルーズがなぜ日本に特化したビジネスに注力できるのか。それは、コスタクルーズの組織構成に理由がある。

 コスタクルーズはイタリアが本拠地だが、その中に、欧州クルーズをカバーするコスタクルーズ、ドイツに特化したアイーダクルーズ、そして、アジアクルーズをカバーするコスタ・アジアで構成されている。

 日本クルーズはコスタ・アジアが管轄するもの(コスタクルーズ日本支社も業務指示と報告はコスタ・アジアとやりとりする)で、アジア諸国、そして日本の事情を理解した上で、中国などのアジア諸国とは異なる、日本クルーズ市場に最適化したきめの細かい対応を可能にしている。

 「日本には気軽に乗れるクルーズがなかった。その国でカジュアルクルーズ市場を確保するにはその国に根付くことが必須。(コスタクルーズが)誰もが乗れる気軽なクルーズということをいかにして日本の方に知っていただくかが、いま最も重要なミッション」(小早川氏)

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