いまなぜ増える海外客船の日本発着クルーズ観光地としての日本(4/4 ページ)

» 2019年07月12日 13時15分 公開
[長浜和也ITmedia]
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日本クルーズ市場はまだ“元年”でないとみるクルーズプラネット

 クルーズプラネットは、1999年に設立したクルーズ専門のH.I.S系列旅行代理店だ。当時は2000年にかけて日本のクルーズ人口が27.5%、外航クルーズに限っては84.3%と非常に高い伸びを示した時期である。しかしその後、01年の米国同時テロや02年〜03年のSARS騒動、08年から09年にかけての世界金融恐慌とリーマンショックなどによる危機を乗り越えて、19年には設立20年を迎える。今ではJTB系列のPTSクルーズと並んでクルーズ専門代理店の大手として日本のクルーズ利用者に認識されている。

クルーズプラネット代表取締役社長の小林敦氏

 その代表取締役社長の小林氏は、海外船会社の日本発着クルーズ参入理由を「いくつかある」と評価している。その1つに挙げたのが、10年のロイヤルカリビアンの「レジェンド・オブ・ザ・シーズ」による春の大型連休クルーズの成功、そして、13年に参入したプリンセスクルーズの業績が非常に好調だったことだ。

 レジェンド・オブ・ザ・シーズのクルーズは期間限定のわずか2航海の販売だったが、定数の2倍に及ぶキャンセル待ちが出るなど、非常に好調な実績を残している。「その業績を見て他の海外船会社が日本のクルーズ市場における潜在能力に気が付いた」(小林氏)。

クルーズプラネットでは、クルーズ認知向上のための自主イベントも積極的に企画している。7月14日と15日には東京交通会館でクルーズフェスティバル東京2019を開催する

 その後プリンセスクルーズとは異なるユーザー層をターゲットにして参入したコスタクルーズも、時期の変動はあったものの業績は好調で、その成功を知った多くの海外船会社がいま日本発着、もしくは日本寄港クルーズを本格的に増やしている段階だと小林氏は説明する。

 「プリンセスクルーズにしてもコスタクルーズにしても参入当時は集客に苦労した時期もあったが、中長期的な視点で継続したプロモーションを展開した結果、日本の利用者に定着し、いまでは多くのクルーズで順調に売り上げを伸ばしている」(小林氏)

 なお、いま日本発着クルーズを提供している海外船会社は、プリンセスクルーズとコスタクルーズだけだが、ピーク時だけ提供している海外船会社の中には、業績好調を受けて配船時期を拡大する動きを見せているところもある。小林氏によると、2社ほどがその検討に入っているという。

 加えて小林氏は、中国におけるクルーズ市場の成長が日本クルーズ市場の活性化に影響を与えているとみる。

 従来、クルーズ市場の本場である地中海やエーゲ海、カリブ海から隻数の限られる大型客船をアジア海域に配船するには、回航するだけでも大きな負担になる。しかし、中国クルーズ市場の成長に伴って、通常は中国沿岸港に配船し、日本クルーズ市場のピーク時(春の大型連休や夏のお盆時期など)にだけ日本クルーズ航路に配船することが可能になった。このように日本クルーズ航路へ配船しやすくなったことも外国船籍客船が多数日本にやってくるようになった理由として挙げられるという。

 日本のクルーズ市場では、これまでの何度か「本格的なクルーズが日本でも」と訴求してきた時期があった。俗にいう「クルーズ元年」のタイミングだが、小林氏は、「日本のクルーズ元年という意味ではまだ来ていない」と断言する。ようやくクルーズ人口は30万人を超えたが、それでも人口比は0.23%にすぎない。

 「欧米の3〜4%に届いていない。せめて1%に達しないと」というのが小林氏の考えるクルーズ元年の条件だ。しかし、それでも日本発着クルーズが定着してきたのは間違いないと話す。「もうブームになる火種はできていて、ずっとくすぶってはいるが、それが爆発してブームになるというところまでなかなかならない」(小林氏)

 以上、日本のクルーズ市場の起爆剤となる可能性が高い、海外船会社による日本発着クルーズ事情を紹介してきた。海外船会社は日本クルーズ市場の持つ可能性と潜在力に大きな期待をかけている。クルーズ業界の常として数年前の経済指標をベースに判断を下しているが、その後の経済状況の変化をもってしても、その判断は変わらないという意見はキュナード・ラインもコスタクルーズも共通する。

 また、コスタクルーズやクルーズプラネットが述べているように、これまでクルーズを敬遠してきた日本人にもっと浸透して利用してもらうための取り組みも着実に進んでいる。

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