絶滅危惧のウナギーー横行する“密漁・密輸”がもたらす「希望なき未来」「土用の丑の日」に憂う【前編】(3/5 ページ)

» 2019年07月24日 05時00分 公開
[真田康弘ITmedia]

緩すぎる規制と「密漁・無報告ウナギ」の蔓延

 現在シラスウナギの採捕は基本的に各都府県レベルで規制されていて、漁期や採捕上限などの規制も都府県別だ。ただしウナギ養殖業は農林水産大臣の許可を要する指定養殖業に指定されていて、この許可に基づき国は合計21.7トンの池入れ割当量を設定、各都府県に配分している。

 問題なのは、その採捕上限などの規制が緩すぎる場合が少なくない点だ。例えば茨城県では17年漁期に1283キロ、18年漁期に1239キロのシラスウナギ採捕が県に報告されている 一方(日本養殖新聞 19年6月15日)、18年漁期の採捕上限はこれらを遥かに上回る6200キロに設定されている(みなと新聞 19年3月20日)。茨城県内に限れば6200キロものシラスウナギ需要はなく、枠は明らかに過大だ。

 加えて、一部の県ではそもそも採捕上限すら設定されていない。14年に定められた国全体の池入れ上限21.7トンは、同年漁期の池入れ量(27.1トン)を2割削減した数字だが、水産庁の資料によると、過去10年で池入れ量がこれを上回った年は2回しかない(図2参照)。そもそもこの池入れ上限の数字に科学的根拠はなく、資源保護のための役割を十分に果たしているとは言い難い。

photo (図2)池入れ量を制限しても規制が緩すぎて全く機能していない

 さらに問題なのは、罰則が密漁から得られる利益に比べて緩すぎる点だ。現在ウナギの採捕は都道府県が制定する漁業調整規則(海の場合)及び内水面漁業調整規則(河川・湖沼などの場合)により規制されている。しかし漁業法で定められているこれらの規則の罰則上限は「6月以下の懲役若しくは10万円以下の罰金」に過ぎない。

 たとえ密漁の罪に問われたとしても、多くの場合は略式起訴され、略式命令で数万円程度の罰金となるだけだ。ウナギの稚魚を違法に採捕した場合、その利益は場合によっては数十万円単位から百万円単位にもなり、密漁で摘発される可能性は多くない点を考慮に入れて利害得失を考えた場合、「密漁したほうが得だ」という計算が働いてしまう。

 事実として密漁や無報告のシラスウナギの採捕が広範に行われていると考えられている。例えば18年漁期の水産庁が算出した採捕量は8.9トンである一方、各都府県からの採捕報告量はその約6割の5.3トンにとどまり、約4割に当たる残りの3.6トンは、密漁か未報告のものだと推測される(図3参照)。

 19年も水産庁発表による採捕量は3.7トンであるのに対し、各都府県採捕報告量は2.2トンで(日本養殖新聞 19年6月15日)、やはり約4割の1.5トンが密漁・無報告由来の「黒い」シラスウナギの可能性が高い。

photo (図3)採捕量のうち半数近くが密漁・無報告由来の「黒い」シラスウナギの可能性が高い

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