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転職の「扇動者」にも「全否定派」にも惑わされないシンプルな心構えとは先入観と風説を斬る(2/4 ページ)

» 2019年07月23日 07時00分 公開
[山口周ITmedia]

「転職者の75%は年収低下」説の欺瞞

 次に取り上げたいのが、極端に転職に消極的・否定的な主張です。「転職は慎重に」というのならまだ分かるのですが「転職するべきでない」とか「億単位の損」などと一刀両断にしている主張も見られます。

photo 『仕事選びのアートとサイエンス』(光文社新書)。著者でコンサルタントの山口周(やまぐちしゅう)氏は1970年東京都生まれ。慶應義塾大学大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ等を経てコーン・フェリーに参画。現在、同社のシニア・パートナー。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。著書に『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?』(光文社新書)など

 こういった主張の根拠としてよく取り上げられているのが「転職によって年収が上がるケースは25%程度で、75%のケースはむしろ年収が下がっている」という総務省の調査結果なのですが、この主張にはいくつか問題があります。1つずつ説明しましょう。

 1つ目に指摘したいのが、この主張はそもそも論理的におかしいという点です(大前提として、私は転職の是非をこういった表面的な数値で議論すること自体をバカらしいと思っていますが、あえてこの主張の枠組みにのっとって考えてみましょう)。

  ポイントになるのは、この統計数値が「1回の転職の成否」をベースにしている、という点です。転職は人生の中で何度も挑戦できる上に、成功したらそこでやめればいいというゲームです。一方、先ほど言及された総務省の統計数値は、あくまで「1回の転職」の結果でしかありません。「何度もトライできる」というゲームの特性を無視して、1回の転職の成功・失敗の確率を元に議論することは、論理的に間違っています。

 これを数字で説明してみましょう。 仮に総務省の調査の結果が正しいとして、1回の転職で失敗する可能性が75%=3/4だとすると、2回連続で失敗する確率は3/4の2乗で=9/16になります。つまり1回だけの場合の75%だった失敗確率が、ほぼ半分の確率まで低下するわけです。

 同じように、3回連続で失敗する確率は3/4の3乗=27/64で約4割に、4回連続になると4乗=81/256で3割程度の確率にまで下がります。つまり転職に4回トライして4回とも失敗する確率は、数学的には3割程度しかないということです。

 これが「転職で年収が上がった人は25%しかいない。だから転職はしないほうがいい」という主張は論理的に間違っていると、私が反論する理由です。

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