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池澤夏樹が『2001年宇宙の旅』からひもとく「AI脅威論」の真実池澤夏樹は「科学する」【前編】(2/4 ページ)

» 2019年07月29日 05時00分 公開
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宗教にすがるように科学にすがる

 (身近な科学と理論の)両方を総合して、われわれにとって科学とはどういうことなのか。いかに科学に「すがって」生きていくか。宗教にすがるように、科学にすがる生き方があるんじゃないか――。というようなことを、時々エッセイ集にしたりして書いてきました。最近、それをやっていないなと思ったのが3年ほど前で、一貫した通しの論理は無く、(テーマを)考えていきました。

――本書はもともと、雑誌に連載していたエッセイでした。第1章は、ウミウシなど海洋生物の研究者でもあった昭和天皇についてですね。

池澤: 政治的にはいろいろあった人ですが、科学者的にはやり方がいかにも「帝王の科学」なんですよ。つまり(自身の研究専用の)船が1隻あって、専門の研究者もいて、その研究の成果が決してお金にならない。政治ともつながらない。純粋科学ですよね。しかも分類学、新種探しでした。非常におおらかなものだったな、という話を最初に書きました。それで私自身でも(海洋生物を見ようとして)潮干狩りに行って、潮(の時間)を間違えて失敗したんですけれどね(笑)。

――エッセイの中で池澤さんは「身体感覚を用いる科学の第一歩」として料理を挙げ、そのプロセスを科学的に説明しています。手触り感のある科学というのが本書のテーマの1つでもあります。自身で昔、家具なども改造していたそうですね。

池澤: ある意味、(料理は)「原始人の科学」なんですよ。計測機器を使わず、感覚的に、しかし科学的にやる。勘でやっているように見えて、間違えない。(料理で)塩加減なんて間違えないですよ。それはやはり、身に付いたセンスでしょう。センスと言うのは、「自然に対するセンス」。(これが)科学の始まりなのです。全部「塩は何グラムにしましょう」なんて言っていると、(センスが)分からなくなっちゃう。入れ過ぎたら次は改めればいい。

――一方で、池澤さんが強調する「実感できる科学の大切さ」の対極にあるのが、発達して複雑になり過ぎた科学の「ブラックボックス化」です。AIや原発といった科学技術を、中身が何なのか全く分からないまま利用しているという恐怖。この状況において、実感できる科学というものが重大な意味を持つと思います。

池澤: 実感できない科学がなぜ怖いかと言うと、政治や経済とつながっているからです。純粋科学なら、研究していくだけだから。政治経済とつながると(科学が)「技術」になるでしょう。技術はお金と絡む。そのため、分からないところ、「何をされているんだろう」(という点が出てくる)。

 AIに対する不信とは、実は人間に対する不信ですよ。僕に言わせると、AIに意思はない。コマンドがあるだけで、ウィル(意思)というものはない。AIが人間に反逆するということはあり得ない。欲望が無いのだから。

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