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田坂広志が語る「“AI失業”しないために磨くべき能力」――学歴よりも体験歴の時代に知の賢人・田坂広志が語る仕事術【後編】(2/5 ページ)

» 2019年08月07日 04時45分 公開
[小林義崇ITmedia]
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「あの人と一緒にいると励まされる」

――知識重視の時代は終わり、人の心を相手にした仕事の価値が高まっていくと。

 そうです。一昔前を振り返ると、学びといえば「読書」という時代がありました。旺盛な読書を通じて得た多くの知識があれば他者よりも抜きん出ることができた時代です。しかし、今は、ネットを通じて、必要なとき、誰でも容易に、必要な知識を入手できる時代です。そうした時代には、書物から得た「知識」ではなく、体験からつかんだ「智恵」こそが価値を持つのです。それで、私は若い人に、「自分の頭にあるのは、本から学んだ知識なのか、体験から掴(つか)んだ智恵なのかを区別しながら、棚卸ししなさい」ということをアドバイスします。それは、これからの時代は、“学歴”よりも“体験歴”こそが問われる時代になっていくからです。

 これは、「智恵の体得力」が重要になる時代であるとも言えますが、さらに、自分が体得した智恵を部下などに伝承する力、「智恵の伝承力」を持つならば、より高付加価値の人材として認められます。例えば、営業パーソンとして掴んだ話術やコミュニケーション力を部下に体得させることができる。そういった力です。

 特に現代の職場は、競争原理の導入などによって、上司と部下の関係が希薄になっている時代ですから、智恵の伝承ができる人材は、これからのAI時代においても、引く手あまたでしょう。さらに、「あの人と一緒にいると励まされる」という「心のマネジメント」ができる人材や、「あの人と一緒に仕事をすると成長できる」という「成長のリーダーシップ」が発揮できる人材は、これからのAI時代にも、必ず活躍します。一方、マネジメントといっても、単に部下を“管理”するだけのマネジメントは、今後、その多くがAIに置き換わっていくでしょう。

 この「心のマネジメント」とは、例えば、企画会議のとき、何人かの部下から出された企画からひとつを選ぶような場面で、ただ「A君の企画を採用しよう」で終わらせるのではなく、B君、C君の気持ちも推し量りながら、「A君の企画は面白いが、B君の内容も少し加えてみてはどうかな」「今回はA君の企画を採用するが、C君の企画にも鋭い視点があったな」といった発言をしながら企画会議を収めていくことのできる人材です。ただ、そうしたことができるためには、単に小手先のテクニックを学ぶだけではなく、「人の心に処する智恵」を、体験を通じて身につけていく必要があります。

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