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田坂広志が語る「“AI失業”しないために磨くべき能力」――学歴よりも体験歴の時代に知の賢人・田坂広志が語る仕事術【後編】(4/5 ページ)

» 2019年08月07日 04時45分 公開
[小林義崇ITmedia]
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若者よ、狭き門から入れ

――今を生きる30、40代に向けて、メッセージをお願いします。

 私は、「狭き門から入れ」という言葉を贈りたいと思います。メディアは、本を買わせたり、雑誌を読ませるための戦略として、常に、「いかに楽をして、手っ取り早く、苦労せずに成功するか」という情報ばかりを出しています。そのため、われわれの無意識には、そうしたイージー・ゴーインングな思想が染み込んでしまっています。しかし、若い人が、素晴らしい人生を拓(ひら)いていくためには、まったく逆の思想が求められるのです。

 昔から、「若い時の苦労は、買ってでもせよ」という言葉がありますが、やはりこの言葉は真実なのですね。もちろん、誰といえども、苦労をすることが好きなわけではない。しかし、人生を振り返ると、実は、苦労をしたときにこそ、われわれは成長している。人生においてさまざまな苦労をすることによって、われわれは職業人としても、人間としても成長していける。そのことを理解するならば、「いかに楽をして、苦労せず」という思想を振りまくことは、若い人に、成長できない道、智恵を掴めない道を教えているようなものなのですね。

 その意味で、一つの逆説を述べるならば、われわれは、理解ある上司の下で働き、努力をしなくとも業績が上がるような環境では、成長することはできないのです。ときに、理解の無い上司の下で働くことや、業績を挙げるためにあらゆる工夫をしなければならない環境において、われわれは成長していけるのですね。部下の状況も考えず、無理をいう上司や、こちらの都合を考えない身勝手な取引先との付き合いは決して楽ではない。しかし、そうした経験からこそ、われわれは、大きな学びを得ることができるのです。

――逆境にぶつかったときの向き合い方について、教えてください。

 逆境に向き合うとき、最も大切なものは、根性でも、忍耐力でもありません。それは「解釈力」と呼ばれるものです。人生で与えられる逆境は、誰にとっても辛(つら)いものですが、「解釈力」を身につけるならば、それによって、逆境を成長の糧としていくことができるのです。

 例えば、会社の仕事の受注が落ち込んだとしたら、これは逆境でしょう。こうした時に不安ばかりを感じたり、誰かを批判しても意味がありません。まずは、目の前で起きている事の“意味”を深く考えてみることです。

 そうすれば、「最近、お客さまに対して、ぞんざいな対応をしていなかっただろうか」「受注が安定していたから、油断をしていたのではないか」といった気付きを得ることができます。そして、それを出発点として、「もう一度原点に戻り、お客さまを大切にしよう」「どのようなときも慢心せず、高い目標を掲げていこう」という形で、自分の姿勢を変え、成長に結び付けていくことです。それをすることが、結果として、目の前の逆境を乗り越えることにつながっていきます。

 すなわち、どのようなときも、“自分の成長”と結び付けて考えること。それが、正しい逆境への向き合い方です。「目の前の逆境は、何を教えてくれているのか、何を学べと言っているのか、どういう成長の機会を与えてくれているのか」。そういった視点で向き合ってみることです。実は、こうした「解釈力」こそ、人生や仕事における逆境を越えていく大きな力になるのです。

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