#SHIFT

田坂広志が語る「“AI失業”しないために磨くべき能力」――学歴よりも体験歴の時代に知の賢人・田坂広志が語る仕事術【後編】(5/5 ページ)

» 2019年08月07日 04時45分 公開
[小林義崇ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4|5       
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

経営者は“死生観”を持たねばならない

――今回お話いただいた「3つの能力」は、組織を経営する人には特に求められる気がしますが。

 その通りです。経営者は、この「3つの能力」を最も高度なレベルで身につけていなければなりません。そして、さらに付け加えるならば、経営者には、何よりも“死生観”が求められます。なぜなら、多くの社員の人生を預かる経営者にとって大切なのは、人生で与えられる「縁」に対する感謝であり、特に、その会社に人生を賭けてくれている社員との出会いと縁に対して「有り難い」と思えることだからです。

 では、なぜ目の前にいるひとりの社員との出会いと縁を「有り難い」と思えるのか。それは、その経営者に、確固たる死生観があるからです。すなわち、「人は、必ず死ぬ」「人生は、一度しかない」「人は、いつ死ぬか分からない」という3つの真実を見つめ、腹に据える死生観があるからです。

 死生観を持つと、「一度かぎりの人生で出会った、目の前の人も、かけがえのない人生を生きている」「そうであるならば、この出会いを大切にしよう」と思えるようになります。言葉を換えれば、自分の人生のかけがえのなさを知っている人だけが、人の人生のかけがえのなさを知ることができるのです。

 しかし、残念なことに、最近の企業の経営者は、“ウォールストリート型資本主義”の影響を受け、社員や顧客というものに対する深い眼差しを忘れてしまっています。「企業収益を最大化し、株価を上げること」だけが経営者の役割だと思い込んでしまっている。確かにそれも大事なことですが、預かっている社員に対して、どれだけ深い思いを持っているのか。縁あって巡り会った顧客に対して、どれほど心を込めて接しているのか。企業経営において、その大切なことを忘れてしまっている。

 「営業の部門を強化するために、営業マンをあと20人雇おう」といった“機能”だけを考える経営は、やがて行き詰まるものです。かつて松下幸之助氏は、不況においても、社員を解雇せず、工場の草むしりをしてもらっても雇用を継続したというエピソードがありますが、これはまさしく社員の人生を思っての考えなのでしょう。

 こうした日本型経営の思想は、現在のアメリカ型資本主義から見ると非合理的な経営と思われていますが、しかし、現実には、アメリカ型の経営手法の方がすでに壁に突き当たっています。私は、これからの時代には、世界各国の経営は、人間を大事にする経営へと原点回帰していくと思っています。そのとき、日本型の経営と日本型の資本主義が、再び世界から注目されることになるでしょう。(敬称略)

photo

著者プロフィール

小林義崇(こばやし よしたか)

1981年生まれ、福岡県北九州市出身。埼玉県八潮市在住のフリーライター。西南学院大学商学部卒。2004年に東京国税局の国税専門官として採用。以後、都内の税務署、東京国税局、東京国税不服審判所において、相続税の調査や所得税の確定申告対応、不服審査業務などに従事する。2014年に上阪徹氏による「ブックライター塾」第1期を受講したことを機に、ライターを目指すことに。2017年7月、東京国税局を辞職し、ライターとして開業。TwitterWebサイト


前のページへ 1|2|3|4|5       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.