「年金だけでは老後資金が2000万円不足する」と試算した金融庁の市場ワーキンググループの報告書を巡り、国内では混乱が広がった。しかし、「この問題を巡る議論はウソと誤解ばかりだ」と、ビジネス・ブレークスルー(BBT)大学学長の大前研一氏は一蹴する。
大前氏は、日本人が生涯にわたって豊かに生き続けるために必要なのは、常に学び直す「リカレント教育」だと訴える。『稼ぐ力をつける「リカレント教育」』(プレジデント社)を6月に上梓した大前氏に、「リカレント教育」の必要性や、日本の教育の問題点などを聞いた。
――人生100年時代を迎え、年金だけでは老後に2000万円不足するという金融庁の市場ワーキンググループの報告書に対して批判が巻き起こり、麻生太郎金融相が報告書の受け取りを拒否するなど、政府も国民も混乱しました。この問題をどのように見ていますか。
まず「人生100年時代」の言葉自体がまったくのウソです。この言葉は安倍晋三政権の「人生100年時代構想会議」のアドバイザーをしている、ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン氏が、著書『LIFE SHIFT』で提唱しました。しかし、彼女は人口動態から2007年に生まれた日本人の半数が107歳まで生きると予測しているだけです。みなさんに当てはまる話ではありません。
年金だけでは老後に2000万円不足する試算も、国民全体のことだと誤解されています。これはあくまで現在60歳から65歳の人が、厚生年金を受給して、95歳まで生きると仮定した場合の試算です。しかし実際には、日本人で95歳まで生きる人は4人に1人しかいません。さらに約半分の人は、65歳までにすでに2000万円以上の金を貯(た)めているので、老後資金が不足すると考えられるのは8人に1人。約12.5%ということになります。
あたかも国民全体が、老後に2000万円足りなくなるかのような議論をしたことで、安倍首相は墓穴を掘りました。そもそも国民全体に当てはめたことが間違いなのです。
いまの日本で、実際に老後資金が不足すると考えられるのは、国民年金を受給する人です。国民年金だけだと、生活費が月々16万円ほど不足します。長生きすることはおめでたいことなので、足りない人については国が全て面倒を見ます、という対応ができればそれで終わる話です。議論を解きほどく力を持った政治家がいなかったために、問題が大きくなったのだと思います。
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