――大前さんは日本人が生涯にわたって豊かに生き続けるには、「リカレント教育」が必要だと提唱しています。そもそもリカレント教育とは、どういうものなのでしょうか。
リカレント教育は、基礎学習を終えた社会人が、10年ごとなどに学び直しを繰り返し行うことです。1969年にスウェーデンの文相でのちに首相になったオロフ・パルメ氏が、69年の第6回ヨーロッパ文相会議のスピーチで触れたことがきっかけで、特に北欧諸国に普及しました。北欧企業が、国際競争力が高いのは、リカレント教育が源泉だと考えられています。
一方、日本ではリカレント教育の普及を呼びかけようにも、いくつかの深刻な問題があって進んでいないのが現状です。問題の1つは、日本の高校や大学で学ぶことが、これから社会に出る人にとって全く役に立たないことです。
現在の中学生が40歳前後になる2045年には、人工知能(AI)が人類の知能を超える技術的特異点、いわゆるシンギュラリティを迎えると予測されています。つまり、いま勉強していることが、世の中に出てちょうど活躍する頃には役に立たなくなってしまうのです。こういう時代がくることを分かっていながら、文部科学省が進めている教育は従来通りのままで、問題点を少しずつ修正するだけです。これでは、優秀であればあるほど、本来学ぶべきこととは違った方向で勉強していることになります。
2つ目の問題は、大学を出て10年、20年と働いてきた30代や40代の人たちが、古い仕事のやり方しか学んでいないことです。会社の人事部や教育係は、本来はこれから必要になる新しい仕事のやり方を教育すべきだったのに、これまでの古いやり方しか教えていません。
これでは30代や40代が、これから入社してくるフレッシュな人材にも古い仕事のやり方を教えることになります。シンギュラリティを待たずとも、近い将来、間接業務を中心に半分くらいの仕事がAIやロボットに置き換えられる可能性が高い中で、先輩が後輩に仕事を教えることがそもそも正しいことなのかを疑うべきでしょう。この点を理解している会社はほとんどありません。
3つ目の問題は、政府がリカレント教育という言葉を間違って使っていることです。リカレントは何回も起こる、繰り返すという意味です。人生で何回も勉強し直す必要があるというのが、リカレント教育の本来の意味です。
安倍首相は17年11月に「人生100年時代構想会議」の中で、リカレント教育の必要性を訴えました。しかし、ここで使われた「リカレント教育」は、くたびれたおっさんたちに対して、サラリーマンを卒業したあとも自分で稼げるように再教育をする、という趣旨です。
政府が年金を払えなくなるので、70歳まで働いてもらう。補助金を出すから勉強しろと、政府に都合のいい使い方をしています。こんな政策は全く意味がありません。これはリカレントではなくワンタイムです。リカレント教育は、若い頃から繰り返し学ぶことなのです。
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