人工知能(Artificial Intelligence :AI)の発達と普及によって知的職業の半分が失業する時代が到来する――。多摩大学大学院名誉教授、グロービス経営大学院特別顧問・特任教授の田坂広志氏は、著書『能力を磨く――AI時代に活躍する人材「3つの能力」』(日本実業出版社)において、人生100年時代の到来、学歴社会の崩壊、AI革命の進展といった背景を踏まえ、これからの時代に淘汰されないだけでなく、「活躍する人材」になるために必要な能力を明らかにしている。
将来への不安がかつてなく高まっている今、ビジネスパーソンは、これからどのような力を身につけていくべきなのだろうか。記事の前編「田坂広志が社会人1年目に味わった絶望感――逆境を越えられた理由は「研究者視点」と「心の師匠」」では、社会人1年目に絶望感を味わった田坂氏が、いかにしてその逆境を乗り越えたのかについて聞いた。「後編」となる今回の記事では、田坂氏にAI時代に活躍するために必要な能力と、その磨き方を聞いた。
――今後、ITやAIなどの発達と普及に伴ってさまざまな分野で失業が増えると予想されますが、これからの時代に求められる能力はどのように変わるとお考えですか。
拙著『能力を磨く――AI時代に活躍する人材「3つの能力」』では、知的職業において求められる能力として「基礎的能力」「学歴的能力」「職業的能力」「対人的能力」「組織的能力」の5つの能力があると述べています。
このうち、知的集中力や知的持続力といった「基礎的能力」と、論理的思考力や知識の修得力といった「学歴的能力」を使う仕事の大半は、AIに置き換わっていくでしょう。なぜなら、この2つの能力は、人間の能力に比べてAIが圧倒的な強みを持っているからです。
残る3つの能力である「職業的能力」(直観的判断力と智恵の体得力)、「対人的能力」(コミュニケーション力とホスピタリティ力)、「組織的能力」(マネジメント力とリーダーシップ力)は、AIでは置き換えることが難しく、人間にこそ発揮できる高度な能力であり、AI時代にますます重要性が高まっていく能力です。
例えば、対人的能力に関して言えば、音声認識や音声発話能力を用いて人とコミュニケーションするAIが生まれたとしても、まだ人間の能力に比べるならば非常にレベルが低い。
このことは、例えば、人間を励ます機能を備えたAIをイメージすると理解できるでしょう。人が励まされるのは、単に「優しい言葉」や「温かい言葉」だけによるのではない。相手が自分と同じ感情や経験をもっていると思えるからこそ、その人の言葉が心に響くのです。上司が部下を励ますとき、部下が「この上司も自分と同じような経験があるのか。だから自分の気持ちが分かってくれるのだな」と思えるから励まされるのです。しかし、本来、感情や経験をもたないAIには、そういった“励ます”ことはできません。
このように、「人の心に処する」ということは、AIは不得意です。もちろん、AIにはAIだからこそできる仕事がありますが、こうした「人の心に処する力」、言葉を換えれば、コミュニケーション力やホスピタリティ力と呼ばれるものは、人間だけが発揮できる高度な力です。マネジメントであれば部下の心に処する力、営業であればお客さまの心に処する力、そうした力こそが、プロフェッショナルの高付加価値な仕事に求められる力なのです。
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