インタビュー
» 2019年07月03日 05時00分 公開

中卒・独学・命懸け:アフリカの少数民族を撮り続ける写真家・ヨシダナギが問う「自我無き日本人」 (1/5)

アフリカ人への強烈な憧れを抱き続け、少数民族を撮り続ける1人の女性写真家がいる。服を身にまとわずに暮らす少数民族の村で、現地の女性と同じ姿になることによって「唯一無二」の写真を生み出してきたヨシダナギさんだ。学歴は中卒、写真も独学。治安の決して良くはないアフリカに飛び込んで写真を撮り続ける彼女のモチベーションはどこにあるのか?

[今野大一,ITmedia]
phot ヨシダさんが「世界一ファッショナブルな民族」と呼ぶスリ族にペインティングしてもらっている一コマ(以下、オフショット写真、作品は本人提供)

 アフリカ人への強烈な憧れを幼少期から抱き続け、少数民族を撮り続ける1人の女性写真家がいる。服を身にまとわずに暮らす少数民族の村で、現地の女性と同じ姿になることによって信頼関係を築き、常に「唯一無二」の写真を生み出してきたヨシダナギさんだ。TBSのテレビ番組「クレイジージャーニー」などでご存じの方もいるかもしれない。

 ヨシダさんは幼少期にテレビ番組でマサイ族を見て以来、「大きくなったら自分もアフリカ人のような姿になれる」と信じてきた。だが10歳のときに、自分が日本人だと両親から教えられ、突き付けられた現実に失望する。それは彼女にとって、大いなる「挫折」だった。

 その後イラストレーターとして活躍した後、2009年、23歳のときに単身でアフリカに渡り、憧れていた夢に一歩近づいた。英語はほとんど話せず、辛うじて発せるのは「Hello」「I'm fine」「Hungry」「Sleepy」程度。その状態でアフリカに飛び込んだだけでなく、「海外旅行をした時だけの記録として」撮っていた写真をブログに上げると、その独創的な写真がSNSなどで話題になった。以来、エチオピア、マリ、ブルキナファソ、スーダン、ウガンダ、ガーナ、ナミビア、カメルーン、タンザニアなどに足を運び、現地の少数民族と同じ格好をして心を開かせることによって、彼らが持つ魅力を存分に引き出してきた。

 その過程は驚くほど過酷だ。現地の治安は決して良くない。現地ガイドも海千山千のしたたかな人物もいて、時には言い寄られることもあった。アフリカの地で日本人女性は非常に目立つ。もちろん肉体的にも危険が伴う。少数民族に会いに行くために、時には舗装もされていない道を何十時間も自動車で移動することもある。男性でも体力的にめいるような状況の中、アフリカ人の魅力を伝えるために奔走しているのだ。

 肉体的にも精神的にも1人の女性が許容できる範囲を超えているようにも映る。だからこそ、アフリカの人々と打ち解けるために彼らと同じように現地の衣装に身を包み、関係を築いていくそのさまは、同世代を中心に多くの人々の胸を打っているのだ。

 ヨシダさんの学歴は「中卒」だ。会社に勤めた経験もない。そして写真の撮り方は全て独学。体系的な勉強はしていないし、自身も写真に対しては「無知」だと言い切る。ではこれまで彼女は何を思いながら今まで誰もやったことのない「仕事」を“創”ってきたのだろうか。ヨシダさんに聞いてみた。

phot ヨシダナギ 1986年生まれ、フォトグラファー。幼少期からアフリカ人へ強烈な憧れを抱き「大きくなったら彼らのような姿になれる」と信じて生きていたが、自分は日本人だという現実を10歳で両親に突きつけられ、挫折。2009年より単身でアフリカへ。その後、独学で写真を学び、アフリカをはじめとする世界中の少数民族を撮影、発表。その唯一無二の色彩と生き方が評価され、TVや雑誌などメディアに多数出演。17年には日経ビジネス誌「次代を創る100人」、雑誌PEN「Pen CREATOR AWARDS」に選出される。同年、講談社出版文化賞【写真賞】を受賞。18年にBEST作品集「HEROES」を発売。近著には、写真集『SURI COLLECTION』(いろは出版)、アフリカ渡航中に遭遇した数々のエピソードをまとめた紀行本『ヨシダ、裸でアフリカをゆく』(扶桑社)がある。福岡のラジオ局LoveFMにて毎週木曜午後7時30分から「野性に還ろう。」を放送中。AbemaRADIOチャンネルでも同内容を毎週土曜日午後12時30分より放送(インタビュー撮影:山崎裕一)

常識を外れた発想力と行動力を支えるのは「拾われる力」

――ヨシダさんは写真家として活動する以前、イラストレーターとしても活躍していました。作品が欧米のアニメーション会社など海外でも評価され、日本を飛び越えていきなり海外の会社と仕事をするなど特異な経験もしています。写真に軸足を移してからもアフリカの少数民族を自ら撮影するという発想力と行動力には、ヨシダさんならではのすごみを感じます。ヨシダさんの行動力の源泉はどこにあるのですか? 

 イラストレーターをしていたときは、写真をなりわいにしている現在とはモチベーションやスタンスは違ったと思います。共通しているのは、その時も今も、「一人で何かをやっている」とは思っていないことです。私自身が本当に一人で何かをできる人であったなら、ガイドもつけずに海外に行くでしょうし、自分で出版社やスポンサーに売り込みもするのでしょう……。私にはそこまでの力はありません。

 でも、その時その時で、必ず誰か助けてくれる「エージェント」を見つけられているのです。そのエージェントが海外に売り込んでくれたり、私の代わりにコミュニケーションを取ってくれたりしてくれるのです。

 アフリカにいても、私は現地ガイドを付けていますし、1人では動いていません。なので、ある意味寂しくないというか、心強いと感じていますね。一人で何かをやってきたというよりは、必ず誰かに助けてもらえる状態でやってきたのです。ワンマンでやっているわけではありません。

――なるほど。危険な場所もあるアフリカにいても、ヨシダさんは同志を見つけられるのですね。以前の著書のタイトルにもあるように「拾われる力」が重要なのですね。

 必ず助けてくれる人を見つけていますね。エージェントも、自分でネットを使って探しましたし。たまたま馬が合う人を見つけられて(笑)。

――偶然うまくいったとおっしゃいますが、当然さまざまな失敗も重ねているのだと思います。

 そうですね……。例えば現地ガイドが誰になるのかは、実は「くじ引き」のようなものなのです。電話を取ったオペレーターによりますから。どんなガイドに当たるかは現地で会ってみるまで分かりません。だから良いガイドに出会ったら、次の取材のために個人的にキープしておきます(笑)。

――考え方の合わない人とプロジェクトを進めないといけないことも多いと思います。そういう状況になった時、ヨシダさんはどのように捉えていますか? 著書の中では、「毎日、関係を迫ってくるマリのガイドがいて大変だった」という話もありました。アフリカの方は日本人の考え方とは異なる部分も少なくなく、ストレスを抱えることも多いように思われます。

 私自身は他人に対して怒ることがそれほどないんです。その前にフェイドアウトをしたり関わらなくなったりすることが多いので、そういう感情自体を抱くことが少ない。でも、(マリのガイドの)シセはレベルが違いました。初めてシセに会ったときに、「こんなに不愉快な感情があるのか」「こんなに全てをプラスに取るモンスターのような人がいるのか」と思いました。

 でもそれ以降は、シセを超える人は出てこないですし、シセがいなかったら、あの感情を知ることはなかったので、今思えばいい経験になったと思っています(笑)。

phot 勇猛果敢なアフロの戦士。エチオピアの「アファール族」(以下、写真集『ヨシダナギBEST作品集』(ライツ社)より)
phot 妖精のようにファッショナブルな民族。エチオピアの「スリ族」
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