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アフリカの少数民族を撮り続ける写真家・ヨシダナギが問う「自我無き日本人」中卒・独学・命懸け(2/2 ページ)

» 2019年07月03日 05時00分 公開
[今野大一ITmedia]
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才能を世に出すためにお金は必要

――現在は写真家として写真集の出版に注力していると思いますが、資金面ではなかなか苦労しているのではないかと思います。ヨシダさんのような「才能」がより表に出るためには社会や企業の中にどんな仕組みがあれば、よりよくなると感じますか?

 やりたいことがやれるようになるということですよね……。例えば助成金のようなものがもっと若い人や、やりたいことがある人たちにとって、もう少しハードルが低いものになれば……と思うことはあります。私はまだ恵まれている方だとは思いますが、写真集を一冊作るのはかなりの取材費が掛かります。それを自費で出すと完全な大赤字になります。出版社も助けてはくれますが、全額負担までは厳しいのが実情です。私の場合は一回で数百万円掛かってしまうことも多いので……。

 私の取材は海外が多いので、助成金も提案されるのですが、獲得するために段階を踏むのがとても大変で……。だったら自費で行こうと思ってしまいます。でも、そうしたら大赤字になる。どこかで妥協しないといけなかったり、クオリティーを下げなきゃいけなかったりという現実に直面するのです。

 海外と比べると日本は特にアートに関して、その辺りがあまり理解されていない印象があります。「なくてもいいもの」「そんなにお金を費やすものではない」という風潮がありますよね。そこがもう少し私だけではなく他のクリエイターにも優しくなったらいいのに……とは思います。

phot 資金面の事情から「どこかで妥協したり、クオリティーを下げたりという現実に直面する」と肩を落とすヨシダさん

「無知」であるということ

――フォトグラファーとして活動するに当たって、ヨシダさんは「自分自身が写真を知らないこと」が強みだと著書の中でも書かれています。写真そのものにこだわらず、あくまでも「手段」としているところがあったからこそ、レタッチ(修正)を加えた大胆な表現や、既成概念を意識しない方法を選択できたのではないかと感じていますが、ご自身ではどのように考えていますか?

 最初からそれを意識してやったというわけではないのですが、今改めて考えると、結果的に、写真に興味がなかったり、無知だったり、かつてイラストレーターをしていたりしたからこそ、今の作風ができあがったのかなとは思います。私が写真をきちんと勉強していたら、恐らく今の作風には絶対に至らなかった。至らなかったというか、「許せなかった」と思うんですよね。なので、「無知ゆえに」という部分はあるのかもしれません。

――イラストや絵に関心があるというのは自身の表現欲求からなのでしょうか?

 幼いときから感情を表情や言葉で伝えるのがあまり得意ではなくて、頭の中にあるものをただ描くという行為が楽しかったのだと思います。表現の一つとして。自分にとっては一番向いているものだったので。

――アートや表現にご関心があるということなんですか?

 表現することは好きなのですが、それに興味があるかというと少し違うかな。写真に関しても毎日やりたいということではないんですよ。

――今後、アフリカでの活動やヨシダさんの職業は変わっていくのでしょうか?

 私はずっとフォトグラファーという肩書のままでおばあちゃんになることは考えていないんです。肩書はお飾りくらいのものだと思っているので、いつでも変わっていいと思っています。でも80歳になって、まだ今の仕事をしていたら、それはすごいことだなあって思います。

phot ヨシダさんはアフリカに限らず広く「少数民族」を撮り続けている(「LOST KAMUY」アイヌ民族)

稼働を減らさないと身体がもたない

――今後の抱負は? やはりアフリカの活動を続けるのですか?

 確かにアフリカなど少数民族関連の仕事の方が得意分野ですし、他に取り組んでいる人も圧倒的に少ないので、私が胸を張って行ける現場だと思っています。それ以外でも自分ができる分野があれば良いなと思うのですが……ちょっと稼働を減らしたいな、と。正直、今の仕事は大変な部分もあって、身体がもたないな、と……。何がつらいかというと、アフリカに趣味で行っていたときは3カ月現地に居ても全然平気だったんですよ。でも今はアフリカを訪れるようになって10年目を迎え、虫などに挿されている箇所の数が尋常じゃないんですね。それで内臓が毒素を出し切れていないんですよ。

 10年分の毒素がたまっていて。私はそもそも虫よけなどをしなかったんです。まあ虫よけをしても刺されてしまう環境なのですが。やはり10年目になって身体に負担がかなり掛かってしまっているんですよ。アレルギー反応も出ていて。なので、これを40歳まで続けられるのかなって。行くたびにしんどいので、稼働を減らさないといけない。ロケが増えれば増えるだけしんどい。行きたいんですけど、身体がついてこない。

phot アフロの姿がカッコいいエチオピアの「アファール族」を撮影するヨシダさん

――具合が悪くなるのですか?

 具合が悪くなります。もう薬も効かないんです。でも確かに10年行っていればそうなるよな、と思います。

――では1作ごとのクオリティーを上げていくしかないと。

 はい。でも何十ページの写真集を作るとなると、一回の渡航で全てを撮り切ることはなかなかできないんですよね。何度も足を運ぶしかない。だから結局お金が掛かるんです。写真集を作るのに最低3回は現地を訪れます。だから例えば1回に掛かるのが300万円だとすると、900万円くらいはかかってしまうのです。

――最新の写真集『HEROES ヨシダナギBEST作品集』(ライツ社)は1万2000円(税込み)ですが、紙の質などを考えれば「破格の値段だ」とおっしゃっていましたね。

 非常に貴重な材料を使った写真集ですし、コストがかかっています。でも全額を出版社にお支払いいただくということはないですし、お金が入ってきたらまた次の撮影に回しますから、まさに「自転車操業」なのです。ですが、アフリカの少数民族の生き様を伝えることは今の私にとっては何にも代え難いですから、引き続き多くの人に届けていきたいと考えています。

phot 「Gone With the Wind」ボロロ族(マリ)
phot 「Bright of Desert」ベルベル(モロッコ)

 以上がヨシダさんへのインタビュー内容だ。ヨシダさんはそごう横浜店で、7月15日まで自身の集大成である「ヨシダナギ写真展 HEROES 2019」を開催している。会期中の7月6日、7日にはトークショーとサイン会も開かれる予定だ。

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