いわゆる「年金2000万円不足騒動」の発端となった金融庁の報告書は、さまざまな波紋を呼び、話題となった。
この報告書は、正式名称を「金融審議会 市場ワーキング・グループ報告書 高齢社会における資産形成・管理」といい、年金制度への不信感と相まってすっかり袋叩き状態になった。一方、当該ワーキング・グループ委員の中野晴啓氏は、東洋経済オンラインの記事「本当は怖くない『老後2000万円』報告書の中身」の中で、この報告書の本来の趣旨は、「長期積立分散投資を浸透させること」「(金融機関が)顧客本位の業務運営を実践すること」「高齢社会における金融サービスのあり方を考えること」だと指摘している。
報告書の全文を読んでみれば分かるが、実は報告書は「ごく当たり前のこと」を言っているにすぎない。一言で言えば、よりよい老後を過ごすためは、若いうちからの自助努力も必要だ、ということだ。従って、この報告書で本来注目すべきは「(金融機関が)顧客本位の業務運営を実践すること」「高齢社会における金融サービスのあり方を考えること」を指摘していることだろう。この2点は金融機関側の問題であって、われわれの自助努力で解決できる問題ではないからだ。
こうした騒動とほぼ同じ時期から話題となっていたのが、日本郵政グループの不適切営業だ。日本郵政グループのゆうちょ銀行、かんぽ生命は、投資信託や保険の取引で高齢者に不利益となる不適切な販売を繰り返していたことを認めている。過剰な販売ノルマを課された現場では、ノルマ達成のため、高齢者に不利な契約を誘導していたり、十分な説明を行わずに販売したりするといったことが横行していたというものだ。
融資業務を持っていない日本郵政グループは、収益をあげるためには高い手数料収入を得られる投信や保険の販売を強化せねばならず、現場に過剰な圧力をかけたことが、こうした不適切営業を生んでしまったという指摘もされているし、その後、会社側も認めて陳謝している状況だ。こんなことが常態化している組織が、われわれの資産形成のパートナーになれるはずがない。
ただ、日本郵政グループの真面目な職員には同情すべき点が多々ある。投信、保険を実際に販売するのは郵便局の職員であり、これまではリスク商品の取り扱いをしたこともなければ、強烈なノルマを課されたこともない職員に、「民営化したのだから収益を追求するのだ!」と上から押し付けられても、そんなに簡単には切り替えられるものではないだろう。
さらに言えば、こうした環境下にいるのは、郵便局だけの話ではなく、銀行業界も似たり寄ったりだ。低金利や地域経済の縮小で、融資業務では食べていけなくなりつつある銀行業界も、今や収益の稼げる投信や保険の販売に躍起になっている。ルールの範囲内でやっていることではあろうが、少なくとも顧客の利益より、金融機関の収益を優先する姿勢は資産形成の相談相手にふさわしいとはとても思えない。例の報告書は、こうした金融機関の現状に懸念を述べていた点に注目すべきなのだ。
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