勤続30年の元みずほ行員が斬る! もう一つの「年金2000万円問題」小売・流通アナリストの視点(5/5 ページ)

» 2019年07月23日 05時00分 公開
[中井彰人ITmedia]
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公的な資産形成の相談窓口が必要

 かつて、2000年代初頭の金融危機以降、金融機関は自社の生き残りのため、収益性の高いデリバティヴ商品(金融派生商品:相場変動等をリスクヘッジするための取引だが、相場の変動が想定を超えると大きな損失が発生するリスクがある)を売りまくって、収益を荒稼ぎして生き残ったところも多い。その陰で、取引先企業の中には、想定外の相場変動により巨額の損失が発生したことで、倒産したり、訴訟になったりした事案が多発した。(例えは悪いが、自ら運営する合法カジノに連れていき、場代を集めて儲(もう)けるが、大負けした客には自己責任ですね、というイメージ。間違ってはいないが、納得はいかない感じがする)。

 金融機関は自らの生き残りがかかれば、不作為ではあるが、顧客を踏み台にしてでも生き残ろうとする、という過去の事実がある。顧客本位の販売活動、資産形成のアドバイザー機能を発揮するというきれいごとは、構造的に無理があると言わざるを得まい。

 役所の仕事を増やしていくことがいいとは思わないが、当面は公的な資金で運営する資産形成相談窓口なども必要かもしれない。特定の金融機関からの対価を得ず、販売実績が報酬に反映しないファイナンシャルプランナー(FP)による資産形成の具体的相談ができる公的窓口のイメージ。金融機関に慣れていない一般消費者や、特に高齢者(もしくはその親族)が、金融機関の提案内容にセカンドオピニオンを求めることができれば、販売側もいい加減な説明はできなくなる。

 預貯金運用比率が高く、高齢者が金融資産残高の大半を保有しているこの国は、これから世界に例を見ない高齢化社会に向かっているところだ。こんな金融環境のまま、投資運用を金融機関の勧誘にまかせて進めていけば、かんばしくない事例が多発することは避けられまい。 

 そうなれば、金融機関にとっても、消費者保護規制ばかりが増え、自らの手足を縛るような事態になっていくことは、決して望ましい未来ではなかろう。であれば、金融庁、消費者庁などの役所や業界団体が、なんらかの運用相談組織(例えば公的FP)を設ける方向に行く方がいいのではないか。少なくとも、一金融機関が企業として、適正な営業体制を徹底します、と宣言しても、信じられる根拠がないのである。

著者プロフィール

中井彰人(なかい あきひと)

メガバンク調査部門の流通アナリストとして12年、現在は中小企業診断士として独立。地域流通「愛」を貫き、全国各地への出張の日々を経て、モータリゼーションと業態盛衰の関連性に注目した独自の流通理論に到達。


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