ちなみに、森下さんによるとそもそも中国では、日本の家庭で日常的に作られるような、見た目にも気を配り冷たいままで食べるといった「弁当」の文化はほとんどないという。似た言葉として「テークアウト」に相当する中国語があるが、いわば料理を入れ物に詰めるようなイメージ。中国ではそうして持参した料理を温めて食べるため、オフィスにたいてい電子レンジが置いてあるという。
訪日時に中国人が市販品ののり弁=日本式弁当を食べるのも、「旅行先で『日本の弁当』を食べるというスタイルを楽しむ、いわばコト消費の一環」(森下さん)と分析する。海苔を使った日本家庭発の見栄えのする弁当をSNSなどで知り、日本の弁当文化に関心を持った中国人が、訪日時に市販品の弁当を見つけて食べている――。「のり弁当」がホットワードとして浮上した背景には、そんな流れがあるようだ。
実際、中国人は日本の弁当文化をSNS上の投稿や旅行先の食事として楽しむ一方、日常生活に取り入れているとはどうも言えないようだ。森下さんによると、「のり弁当」として中国人向けSNSに投稿される画像の多くは、今も日本人が手掛けたとみられる弁当で、自作している中国人はかなり少ないとみる。実は、日本企業が以前、弁当箱やしょうゆ入れ、バラン(おかずを仕切るギザギザした緑色の物体)といった日本でおなじみの弁当グッズを中国市場に売り込もうとしたこともあったが、いずれも定着しなかったという。
今や世界中で人気となりつつある日本食。だが、それらがどんなメカニズムで外国人に支持され、あるいはされないのかは決して一筋縄ではいかない。特に日本企業に分析しづらいとされる中国市場で、「のり弁当」の不思議な人気はちょっとしたそのヒントになるかもしれない。
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