N国とれいわ新選組が操る「不安マーケティング」の正体とはビジネスの世界にもはびこる(2/3 ページ)

» 2019年09月05日 06時00分 公開
[真鍋厚ITmedia]

無党派層の会社員が「見当違い」でN国に投じたワケ

 同党の活動内容の是非は取りあえず横に置くとして、あの手この手で「政治家」と「国民」の距離をゼロに近づけることによって、個人が持つ「不安の感情」は「参加意識というエキサイティングな気分」に取って代わったのです。これはばかにできません。

photo 「N国」同様、参院選で存在感を放ったれいわ新選組(提供:ロイター)

 平均的な年収を得ている40代会社員で、ボランティア活動にも熱心な無党派層の男性が、N国党に投票したケースを知っています。

 NHKには何の関心も無かったそうですが、直接訪問で連日訪れてくる集金人に我慢ができなかったこの男性。深夜、仕事を終えて家に帰ると、今度はポストに訪問を知らせる紙が入っており、担当者の名前の印鑑が押されていたそうです。ネットで調べると「NHK撃退シール」なるものを見つけ、N国党の存在を初めて知ったといいます。早速注文して玄関に貼り付けました。

 男性は、親の介護施設への入所で出費がかさみ、自身の奨学金の返済が滞っていることなどもあり、ふつふつと怒りが沸き起こって来るのを抑えられず、ここ数年ごぶさただった投票所に足を運んだといいます。

 これはほんの一例に過ぎませんが、「不安な庶民」の敵意がたまたま直接訪問してくる集金人に向けられ、それをN国党が票田として吸い上げたと見ることができるでしょう。もちろん、普段の男性の悩みから推測すれば「見当違い」の投票行動かもしれませんが、需要と供給の視点から見れば、パラノイアックな感受性を逆なでする個別訪問のシステムがなければ、N国党がこのような形で出現する余地も無かったともいえるのです。

 N国党が「NHKのスクランブル化の実施」というシングルイシュー(単体の論点)で国政政党にまで上り詰めたのは、「不安な庶民」が抱える体制破壊的な気分を受け止めてくれる(理解してくれる)存在に思えたことも大きいのではないでしょうか。とはいえ、仮にスクランブル化が実現したところで、不安の解消になるかどうかは別の話ですが……。

 このような経緯を踏まえると、N国党のようなシングルイシュー政党が後に続く可能性は十分あるでしょう。

 もうお忘れになっているかもしれませんが、かつて小池百合子氏率いる「希望の党」(18年解党)は17年にベーシックインカム(BI)を公約の1つに掲げました。今回の参院選でも「オリーブの木」が公約にしていました。BIは、全ての国民に生活に必要な最低限の所得を無条件に給付する政策構想で、近年世界的な議論になっており試験実施する地域も現れ始めています。「希望の党」は、基礎年金、生活保護、雇用保険などをBIに置き換えていくことを検討していました。

 仮にBIをシングルイシューとして打ち出す政党ができれば一定の支持を集めるかもしれません。「ベーシックインカムを実現する党」(BI党)です。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.