N国党よろしく「年金制度をぶっ壊す」と言って「全世代に等しく給付される所得保障」の意義を訴えれば、経済的に不安定な状況にある若年層や、年金支給開始年齢の引き上げにおびえる中高年層にまでリーチできるかもしれません。実際、社会保険庁の解体・廃止とセットでBIを提案している論者もいるぐらいです。
参院選前に話題になった「老後2000万円問題」が露呈させたのは、「国家は国家の生き残りにしか興味がない」という当たり前の現実と、それ以外の事柄は「自己責任でお願いします」というメッセージでした。今後も既得権益層に「唾を吐く」政党は一定の支持を得るでしょう。
マーケティングの面からいえば、「誰が損をしているのか」を可視化して“顧客対象”に設定し、既存体制を悪として糾弾しアピールする「煽りモード」の戦略が効果的です。ここでも「参加意識というエキサイティングな気分」を生み出す仕組みが必須になるでしょう。それがなければ“仏作って魂入れず”です。
これはビジネスの世界においても同様です。
例えば、オンラインサロンが与えてくれる帰属意識やオフ会での高揚感と、政党ボランティアが与えてくれる帰属意識と集会の高揚感は、どちらも不特定多数の「不安の感情」をすくい上げるビジネスモデルといえる面があります。「自分の好きなことを仕事にする」「ダメな自分を根本から変える」といった決まり文句も、よく考えるまでもなくシングルイシュー的ではありませんか。それこそ「ダメな自分をぶっ壊す」と笑顔で拳を握り締め、自らを鼓舞する自己啓発系のオンラインサロンが流行るかもしれません。
このように、ありとあらゆるギミックが試され、改良され、転用されることでしょう。質の悪いジョークに聞こえるかもしれませんが、誰もが何かに固執せざるを得ない「不安の時代」において、高みの見物を決め込むことは不可能なのです。
ビジネスの世界も政治の世界も、「不安な庶民」をいかに動員するかに骨身を惜しまなくなっています。わたしたちはそのような「草刈り場」に置かれていることを自覚した上での、いわば「不安の感情」の出口戦略が求められているのかもしれません。
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