日本企業ではほとんど知られていない一方、世界基準として知られている理論の1つに「AMO理論」があります。
これはアッぺルバウムらが2000年に発表した理論で、高業績を挙げている職場のシステムを研究した結果、個人の業績は「A」「M」「O」の3つの変数による関数であるとしたものです。
方程式で表せば、P = f (A, M, O) となります。PはPerformance(業績)を、AはAbility(能力)、MはMotivation(やる気)、OはOpportunity(機会)を表します。この3つの変数についてのポイントは次の通りです。
AMO理論を部下育成に適用すると、対象者の育成ニーズを明確にすることができるため、管理職研修において部下育成のセッションを行うとき、私は必ずこのAMO理論を紹介し、演習を行います。
演習の一部を以下に紹介しますので、自分の部下に当てはめて考えてみてください。
1.部下を業績という切り口でランク付けし、最上位者と最下位者を特定してください
2. 最上位者をさらに成長させるために、AMOの3要素のうちカギとなるものを1つ特定し、その具体策を立ててください
3.最下位者を標準レベルまで引き上げるために、AMOの要素のうちカギとなるものを1つ特定し、その具体策を立ててください
このプロセスによって、AMO理論によって部下の育成策を考える手掛かりを得ることができます。
部下が複数人いる場合は、もちろん全員について同様のプロセスにより、育成策を練ることが大切です。しかし、優先順位には気を付けてください。その作業に取り組む優先順位は、「最上位者→最下位者→上位20%の人→下位20%の人→中位者」とすることが重要なポイントです。
チームの業績に影響を及ぼす「組織能力」という観点から考えると、この順序で育成策を練ることが大切であり、最上位者から最下位者まで順々に考えていってはいけません。
最上位者として考えられる部下が転職などでいなくなったら、チームとしての組織能力や業績に多大な影響を及ぼします。であるならば、育成策についても最初に時間を掛けて考えるのが当然です。
次に組織の能力や業績に対して影響を及ぼす存在は、最下位者です。ボトルネックという言葉が示すように、何とか対処しなくてはならない対象者です。組織のスピードは、その構成員のうち最もスピードが遅い人に合わせざるを得ません。
チームとしての業績の足を引っ張る存在にきちんと対峙(たいじ) し、その業績を改善させるのは上司としての役割です。当然のことですが、こうした人を煙たがって放置したり、異動という手段でたらい回しにしたりしてはいけません。
もし育成策を最上位者から順々に考えると、最下位者の育成策を考える順番は最後になってしまいます。これが、最下位者の育成策がおざなりなものとなる1つの要因になっているケースが多く見られます。
世界基準では、先に述べた順番で人事評価を行い、その中で育成策を考えるのが当たり前になっていますので、参考にしてみてください。
また、AMO理論を育成策に適用するとき、「AMOという3つの切り口のうち、1つに絞って考える」ということも大切なポイントです。
とかく私たち日本人は、「全てが大事」と思いがちで、優先順位を付けることが苦手です。しかし、部下育成については特に、一点突破の思考が大切です。3つの要素について万遍なく改善しようとすると、焦点がぼやけてしまい、結果は何も変わらないことになります。
部下自身が、1つずつ着実に変化を実感できるようにしてあげることが成功の秘訣です。部下のAMOそれぞれに対してアプローチする場合も、優先順位を付けて取り組んでください。
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