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上司はなぜ部下の価値観を「無視」してしまうのか?――元GE「リーダー育成専門家」が斬る世界基準の部下育成法とは?(3/4 ページ)

» 2019年10月02日 06時00分 公開
[田口力ITmedia]

部下の育成ニーズを把握! 世界基準の「理論」とは

 日本企業ではほとんど知られていない一方、世界基準として知られている理論の1つに「AMO理論」があります。

 これはアッぺルバウムらが2000年に発表した理論で、高業績を挙げている職場のシステムを研究した結果、個人の業績は「A」「M」「O」の3つの変数による関数であるとしたものです。

 方程式で表せば、P = f (A, M, O) となります。PはPerformance(業績)を、AはAbility(能力)、MはMotivation(やる気)、OはOpportunity(機会)を表します。この3つの変数についてのポイントは次の通りです。

photo 世界レベルの部下育成、ひいてはリーダー育成論についてまとめた『世界基準の「部下の育て方」 「モチベーション」から「エンゲージメント」へ』(KADOKAWA)。著者の田口 力(たぐち ちから)氏は1960年、茨城県生まれ。83年早稲田大学卒業。元GEクロトンビル・アジアパシフィック プログラム・マネジャー。株式会社TLCO代表取締役。上智大学グローバル教育センター非常勤講師。GE在籍時は世界最高のリーダー育成機関として知られる「クロトンビル」で、日本人として唯一リーダーシップ研修を任される。日本・アジア太平洋地域の経営幹部育成プログラム責任者として研修を企画・開発・実施。講師としては10年から4年間、研修参加者からの評価点では連続世界一の実績を持つ。著書に『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられている仕事の基本』『マインドフル・リーダーシップ』『世界最高のリーダー育成機関で幹部候補だけに教えられているプレゼンの基本』(いずれもKADOKAWA)など
  • アビリティー……その職務を果たすのに必要なスキルや知識を持っているか
  • モチベーション……その職務をしたいというやる気や熱意があるか
  • オポチュニティー……仕事をするために必要な支援が得られるような職場環境が整備されているか(例えば、問題が起きたときにそれを聞き入れてくれる窓口があるか、対処するためのテクノロジーが備わっているか、能力を発揮する機会があるかなど)

 AMO理論を部下育成に適用すると、対象者の育成ニーズを明確にすることができるため、管理職研修において部下育成のセッションを行うとき、私は必ずこのAMO理論を紹介し、演習を行います。

 演習の一部を以下に紹介しますので、自分の部下に当てはめて考えてみてください。

1.部下を業績という切り口でランク付けし、最上位者と最下位者を特定してください

2. 最上位者をさらに成長させるために、AMOの3要素のうちカギとなるものを1つ特定し、その具体策を立ててください

3.最下位者を標準レベルまで引き上げるために、AMOの要素のうちカギとなるものを1つ特定し、その具体策を立ててください

 このプロセスによって、AMO理論によって部下の育成策を考える手掛かりを得ることができます。

 部下が複数人いる場合は、もちろん全員について同様のプロセスにより、育成策を練ることが大切です。しかし、優先順位には気を付けてください。その作業に取り組む優先順位は、「最上位者→最下位者→上位20%の人→下位20%の人→中位者」とすることが重要なポイントです。

 チームの業績に影響を及ぼす「組織能力」という観点から考えると、この順序で育成策を練ることが大切であり、最上位者から最下位者まで順々に考えていってはいけません。

 最上位者として考えられる部下が転職などでいなくなったら、チームとしての組織能力や業績に多大な影響を及ぼします。であるならば、育成策についても最初に時間を掛けて考えるのが当然です。

「最下位」の人を後回しにするな

 次に組織の能力や業績に対して影響を及ぼす存在は、最下位者です。ボトルネックという言葉が示すように、何とか対処しなくてはならない対象者です。組織のスピードは、その構成員のうち最もスピードが遅い人に合わせざるを得ません。

 チームとしての業績の足を引っ張る存在にきちんと対峙(たいじ) し、その業績を改善させるのは上司としての役割です。当然のことですが、こうした人を煙たがって放置したり、異動という手段でたらい回しにしたりしてはいけません。

 もし育成策を最上位者から順々に考えると、最下位者の育成策を考える順番は最後になってしまいます。これが、最下位者の育成策がおざなりなものとなる1つの要因になっているケースが多く見られます。

 世界基準では、先に述べた順番で人事評価を行い、その中で育成策を考えるのが当たり前になっていますので、参考にしてみてください。

 また、AMO理論を育成策に適用するとき、「AMOという3つの切り口のうち、1つに絞って考える」ということも大切なポイントです。

 とかく私たち日本人は、「全てが大事」と思いがちで、優先順位を付けることが苦手です。しかし、部下育成については特に、一点突破の思考が大切です。3つの要素について万遍なく改善しようとすると、焦点がぼやけてしまい、結果は何も変わらないことになります。

 部下自身が、1つずつ着実に変化を実感できるようにしてあげることが成功の秘訣です。部下のAMOそれぞれに対してアプローチする場合も、優先順位を付けて取り組んでください。

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