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上司はなぜ部下の価値観を「無視」してしまうのか?――元GE「リーダー育成専門家」が斬る世界基準の部下育成法とは?(1/4 ページ)

» 2019年10月02日 06時00分 公開
[田口力ITmedia]

編集部からのお知らせ:

 本記事は、GEの経営幹部育成プログラムなどを歴任した著者による『世界基準の「部下の育て方」 「モチベーション」から「エンゲージメント」へ』(著・田口力、KADOKAWA)の中から一部抜粋し、転載したものです。リーダー育成の専門家が分析した「部下の価値観の理解法」をお読みください。


 あなたは自分の部下一人一人の個人的価値観を把握していますか。

 部下をエンゲージするスキルの第一は、相手を「知る」ということですが、その知るべき内容の中で、部下育成と密接に関連するのが「価値観」です。

 なぜなら、人は自分の価値観に合った仕事ができているとき、そこにコミットメントが生まれるからです。経験的に理解できると思いますが、コミットした人とそうでない人との間には、パフォーマンスにおいて大きな差が生じます。

photo 上司が部下の価値観を理解しないと、仕事のパフォーマンスに問題も(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

自分の価値観を知った上で「部下に押し付けない」

 従って、上司としてのあなたの仕事は、部下の価値観に合うように仕事を設計して部下に与えるということになります。これは言葉にすれば簡単ですが、実行するのは容易ではありません。個人の価値観が多様化する中、一人一人の価値観に合わせて全ての仕事を設計することは現実的ではありません。

 例えば私が行うリーダーシップ研修では、自己の価値観を知るためのセッションを取り入れていますが、そこで一位にランクされる常連の価値観は「家族」と「健康」です。部下が「家族」や「健康」を大切にできるような仕事のあり方を設計するには、会社の制度を工夫する必要があり、現場の管理職1人の力ではどうにもならない部分があるでしょう。

 とはいえ、個人の価値観は1つだけではありませんし、価値観によっては管理職として工夫できることもあります。

 価値観についてのセッションでも、参加者それぞれに「1位」だけではなく、「上位5つ」を特定してもらっています。「家族」「健康」以外でトップ5によく入る価値観としては、「挑戦」「自律」「感謝」「認知」「専門性」といったものが挙げられます。

 こうした価値観と仕事を適合させることについては、管理職の出番があります。職務設計を工夫したり、仕事の仕方をアドバイスしたり、あるいは仕事の成果についてフィードバックを行うなど、さまざまな観点から関与できるはずです。

 その際に気を付けなければならないことは、自分の価値観を押し付けたり、自分とは異なる価値観を否定したりしないということです。

 前述のように、私たちの言動(発言と行動)、特に意思決定の場面においては、必ずと言って良いほど価値観というバイアスがかかっています。しかもそれがほとんどの場合、無意識になされるということが怖いのです。人は無意識のうちに同じような価値観を持つ人を好み、そうでない人を遠ざけてしまいます。

 部下の価値観を知るために部下と向き合うときには、まず自分の価値観を明らかにし、部下の価値観は自分のそれとは違っていて当たり前だと自分に言い聞かせてください。

 これを意識的に行わないと、無意識のうちに部下を自分の好ましい方向に誘導してしまう危険性があります。特にキャリアに関するコーチングやアドバイスをする際には、この価値観の相違が大きく影響するので注意が必要です。

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