寄港誘致反対の根拠「クルーズに“着地型観光”は入り込めない」は本当かクルーズ市場最前線(1/2 ページ)

» 2019年10月02日 06時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

 「クルーズ寄港誘致に意味なし」と主張する人たちが掲げる根拠の1つに「クルーズは典型的な発地型観光で収益は船会社が全部持っていってしまう」という意見がある。

クルーズ寄港誘致は「典型的な発地型観光で地元の利益はわずか」という意見は多いが……

 そもそも観光形態を示す発地型や着地型とはなんだろうか。ここでいう「発地」「着地」というのは、次のような意味合いになる。

  • 発地=観光客が出発する土地、場所→観光客を集めて送り出す観光関連企業側
  • 着地=観光客が到着する土地、場所→訪れる観光客を受け入る観光関連企業側

 発地型観光では、多くの観光客が出発する大都市圏にある大手旅行会社が企画して販売するツアーが主流だ。クルーズに限らず、大手旅行会社が販売する従来型のツアー商品は発地型観光商品といえる。対して、着地型観光では、観光客が訪れる目的地にある旅行会社(多くの場合、中小規模の企業になる)が企画してツアーを販売する。

 このように、発地型観光と着地型観光という言葉は、観光商品の企画と販売を「送り出す側」で実施するのか「受け入れる側」で実施するのかを区別しているにすぎない。これだけで、発地型観光商品=「悪」で、着地型観光商品=「善」を表すものでもない。

 なお、観光庁は着地型観光(正しくは着地型旅行)を「地元の観光資源(自然、歴史、産業、町並み、文化など)を活用した旅行や地元ならではの文化や産業の体験交流などを重視した旅行」と定義しており、企画販売の主体については言及していない。

 とはいうものの、日本でクルーズが認知されるようになった近年のはるか前から、発地型観光については「大都市圏の大手旅行会社が利益のほとんどを持っていってしまい観光客が訪れる地域の利益はわずかしかない」という批判があった。しかし、これは、クルーズや発地型、着地型という観光商品の“形態”ではなく、大都市圏にある大規模観光業界が“強い”という商習慣に起因する問題といえる。

 この観光業界の構造的問題を解決すべく、着地型観光に対する関心が近年になって高まっている。これは、法人の団体旅行の需要が縮小し(産労総合研究所「2014年社内イベント・社員旅行等に関する調査」では、社員旅行実施率は1994年の88.6%から2004年に36.5%まで低下。ただし、現在はIT企業を中心に5割近くまで回復しているという)、個人旅行がパックツアーによる団体旅行から自分で手配するスタイルに移行したことも影響している。

 業界の法制度的には、11年(具体的な法整備は18年)に旅行業法で業務範囲を「隣接する市町村など」に限った小規模な地域限定区分を旅行業の登録区分に設けたことも、地方の観光業界が着地型に着目する契機となっている。

 着地型観光商品のメリットは、観光地の地元旅行業者に利益がもたらされるだけではない。現地における最新の状況をきめ細かく組み込んたツアー商品を提供できることもあって、観光客においても関心が高まりつつある。この動向はクルーズ業界でも共通している。

 クルーズ商品を差別化する重要な要素1つに、寄港地で実施するツアー(これを「エクスカーションツアー」と呼ぶ)がある。より興味深いツアーがあるか否かは、クルーズを選ぶときの重要な検討項目になる。多くの場合、寄港地の観光名所名跡をコース組み入れた無難なツアーを用意するケースが一般的だ。

木更津市は市役所にクルーズ対応専門部署を設けて木更津港発着クルーズの誘致を積極的に取り組んでいる
新宮市は陸路でのアクセスが難しいこともあってクルーズ誘致に積極的だ。近年、熊野古道ツアーの人気もあって多くの大型客船が新宮港に寄港している

 しかし、クルーズを利用する観光客の中には、既にその寄港地を訪れたことのあるリピーターが少なくない。また、誰もが知っている名所名跡を見て回るだけのツアーではなく、「現地の人だけが知っている穴場」を訪れたいと考える観光客は増えている。クルーズ販売代理店によると、この傾向は旅慣れている人が多いクルーズで特に顕著だという。

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