寄港誘致反対の根拠「クルーズに“着地型観光”は入り込めない」は本当かクルーズ市場最前線(2/2 ページ)

» 2019年10月02日 06時00分 公開
[長浜和也ITmedia]
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なぜクルーズに着地型観光を導入できないのか?

 その一方で、寄港地の地元観光業者がクルーズ運航会社に着地型観光商品を提案しにくいという「構造的事情」がある。その事情とは次のようなものだ。

  • 客船の寄港には多種多様な関係機関と関係者が関与するため取りまとめが難しい
  • クルーズ事業の構造を把握、理解している寄港地の地元観光業者がいない
  • 寄港地の地元観光業者とクルーズ関連企業や関連機関をつなぐネットワークがない(観光庁「クルーズの着地型観光に関する優良事例集」より筆者要約)

 この問題は、クルーズ関連業界のみならず日本政府関係機関でも認識されている。そこで、観光庁は「日本の魅力発信に向けたクルーズ着地型観光の充実のための検討会」を18年11月に立ち上げ、19年3月までに3回の検討会を開催して、6月に「クルーズの着地型観光に関する優良事例集〜クルーズ船寄港による地域の活性化にむけて〜」と題する報告書を公開した。

 ここには、寄港地において着地型観光商品を提供する取り組みを調査し、それぞれの地域における寄港地ツアーの問題点の抽出と、その解決に向けた取り組みを優良事例とし、さらに、課題を残した“しくじり事例”も取り上げている。

佐世保港も報告書で優良事例として取り組みが紹介された
佐世保は港から徒歩圏に商店街があり、クルーズで訪れた観光客向けにマップやパンフレットを配布している

 報告書では、先に挙げた着地型観光商品の提案を阻む「構造的事情」それぞれに対する解決策の実例を紹介している。

 クルーズ受け入れに関与する関係機関と関係者の連携では、「港ごとに中心となる人物=ローカルエキスパート」の重要性とその育成(清水港の事例)や、地元DMO(Destination Management Organization:国土交通省は「観光地域づくりを行う、かじ取り役となる法人」と定義している)との連携による受け入れ窓口の一元化と、民間スキルの活用(舞鶴港の事例)を紹介している。

 クルーズの受け入れでは、寄港地ツアーの提案と実施だけでなく、寄港誘致、係留、入出国手続き、市街地動線、市街地(商店街)対応、消費拡大施策、地元住民との交流など、幅広い取り組みを継続する必要がある。

 多岐にわたる関係機関と関係者を束ねるために、多くの場合自治体がその役割を担うことになるが、自治体では定期的な異動があるため、継続的な取り組みが難しい。そこで、関係機関と関係者のそれぞれに影響力のあるローカルエキスパート、もしくは自治体と民間の連携で設立したDMOがハブとなることで、継続した連携対応を可能にするとしている。

 着地型観光商品を提案できない最も大きな要因の「ネットワークがない」についても、クルーズの寄港地ツアーの販売や、実施に関連するクルーズ運航企業、クルーズ運航企業とつながりのある旅行会社、港湾機関と多種多様な相手とのつながりが必要になる。こちらもクルーズ事業に慣れていない中小規模の観光業者にはハードルが高い。

 そこで、国土交通省は、クルーズ運航企業と着地型観光商品の提供を希望する観光業者が参加する意見交換会や、寄港地の観光業者によるクルーズ運航企業を対象とした商談会を15年から定期的に開催している。

 商談会に参加したクルーズ運航企業は、キュナードやノルウェージャン、MSC、シルバーシー、ボナンなど延べ16社、18年までに参加した港湾は延べ230に達する(1回当たりの参加港湾は10前後。最大は19年3月に東京で開催した22港湾)。

 また、意見交換会は18年と19年にわたり5回開催されており、プリンセス・クルーズ、ロイヤル・カリビアン・クルーズ、コスタクルーズ、クリスタルクルーズが参加した。プリンセス・クルーズでは、この意見交換会をきっかけに、着地型観光商品を寄港地ツアーとして19年に21港湾30コースを採用している。

 以上のように、クルーズ業界と観光庁では、クルーズを利用する観光客の満足度向上(=日本に寄港するクルーズを利用する観光客の増加)と、寄港地の観光業界利益向上を目指して、寄港地における着地型観光商品をクルーズ運航企業に採用してもらうべく活動をしている。その成果は、舞鶴港や清水港、佐世保港、高知港、青森港などで実績がでている。

18年5月に退役した元護衛艦「くらま」が佐世保に係留されていた。
撮影した1カ月後、くらまは潜水艦用新型魚雷の標的となり海没する

 しかし報告書では同時に、海外発着の日本寄港クルーズでは依然として地元に利益をもたらさない寄港地ツアーが数多くあることや、地元住民の観光客歓迎活動がボランティアに依存していること、地元商店街への動線を確保するバス運営の収益化が困難なことなど、今後の継続的な取り組みの難しさも指摘している。

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