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» 2019年09月26日 06時00分 公開

クルーズ市場最前線:奄美大島クルーズ誘致計画はなぜ挫折したのか (1/4)

国土交通省が「島国日本」の魅力を訴求できる離島を寄港地として支援すべく、開発のモデルケースとして調査を実施した奄美大島。一時は大型客船の寄港誘致計画が持ち上がったものの、2019年8月に計画が撤回された。奄美大島のクルーズ船寄港誘致はなぜ挫折したのか。客船寄港誘致の問題点を冷静に考える。

[長浜和也,ITmedia]

 近年、特に2017年から日本においてもクルーズを利用する旅行者が着実に増えている。これは、クルーズ業界の長年にわたる啓もう活動や事業継続の成果であるとともに、観光立国を標ぼうした日本政府の事業として訪日外国人を増やそうとする流れも影響している。国土交通省が主導する大型客船の寄港誘致がその1つだ。

奄美大島の瀬戸内町に寄港を計画していたのは米国のクルーズ企業ロイヤルカリビアンクルーズだ。所属客船は日本にも訪れている

奄美大島クルーズ寄港誘致はなぜ挫折したか

 国土交通省が「島国日本」を訴求できる島嶼部(離島)を寄港地として支援すべく、寄港地開発のモデルケースとして16年から17年にかけて調査を実施したのが奄美大島と徳之島だった。その調査内容は、17年8月に「島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査の結果(概要)」としてまとめられ、国土交通省のWebページで公開されている。

「島嶼部における大型クルーズ船の寄港地開発に関する調査の結果(概要)」で上がった9カ所の寄港候補地

 その奄美大島では、この調査を契機に大型客船の寄港誘致計画が持ち上がり、18年には奄美大島西部にある瀬戸内町(西古見地区)において、クルーズ寄港誘致を基幹とした観光整備方針が打ち出された。

 この方針表明後から、西古見地区区長や元区長が地域活性の面から誘致推進への期待を示す一方で、自然保護団体などは大型客船誘致に反対する立場で活動を開始している。

 瀬戸内町では、誘致に向けて解決すべき課題を話し合う検討協議会を18年10月から19年8月にかけて5回開催。誘致推進と反対のそれぞれから出た意見を集約し、8月10日には、客船寄港誘致を実施するために必要な条件をまとめた提言として、寄港計画を推進してきた瀬戸内町町長に提出した。

 奄美新聞の報道によると、この提言では、次の7項目が提示されたという。

  1. 自然環境・景観の保全・産業振興に向け専門家の意見を踏まえた適切な対策の検討
  2. キャリングキャパシティー(環境容量)評価を含む観光管理計画策定・治安維持を含めた適正な旅客の観光管理の検討
  3. 奄美のブランド向上のための諸施策の検討、および世界自然遺産推薦地への観光についての管理徹底の検討
  4. 原則、加計呂麻島へのクルーズ船旅客入島を回避すること
  5. 企画段階からの地元自治体・企業が参画できる仕組みの構築
  6. 町民への計画周知、多様な意見を聴取する透明性のある組織づくりの検討
  7. 協議会での委員の意見・要望について解決のための必要な措置を講じること

 この提言を受けた瀬戸内町町長は「7項目の早期実現は困難」と判断し、8月23日に誘致計画の断念を発表した。その記者会見で瀬戸内町町長は、「町民への説明不足や民意が十分に反映されず」「配慮に欠けた事務手続きが行われたこと」「事実に基づかない内容が町民の間に浸透したこと」によって「対立の構図」ができてしまったと述べている(いずれも記者会見における瀬戸内町町長の発言)。

 ここで「町民への説明不足」「配慮に欠けた事務手続き」が示す具体的な内容は、主に17年8月の国交省調査結果公表から、瀬戸内町が詳細を明らかにしないまま非公開で寄港誘致に向けた活動を進めていたこと、誘致を検討する協議会のメンバーを瀬戸内町が専任したこと、そして、19年2月の第三回検討協議会に唯一のクルーズ会社として参加したロイヤルカリビアンクルーズ(以下、RCL)による寄港誘致のプレゼンテーションが非公開で行われたことだ(住民の要望を受けて、プレゼンテーション資料は後日、瀬戸内町公式Webページで公開された)。

 また、寄港するクルーズ会社が不明のまま検討協議会が進み、19年1月末になってようやく明らかになったものの、それが16年に奄美大島龍郷町に寄港計画を提示して(住民の反対を受け)拒否されていたRCLだったことも、住民の心象に大きく影響したはずだ。

 今回の瀬戸内町客船寄港計画については、著名な文化人や大手新聞などが反対の立場で意見を表明している。例えば、アレックス・カー氏と清野由美の共著による「観光亡国論」(中公新書ラクレ)の一部を再編集してPRESIDENT Onlineが掲載した「『クルーズ船で観光振興』はとんでもないウソだ」や、彼らが参照情報として挙げている産経新聞の「【異聞〜要衝・奄美大島(上)】『中国にのみ込まれる』大型クルーズ船寄港計画の裏に…」などがある。これらの記事は次の点で奄美大島寄港計画を危険視している。

  • 大型客船が係留できる大規模埠頭の建造は環境を破壊し多額の税金を浪費する
  • 外国資本の大規模免税店だけが利益を得る「ゼロツーリズム」になる
  • 中国人の大集団が上陸するのはオーバーツーリズムや治安維持上の問題がある
  • 大型客船が着岸できる大規模岸壁を奄美大島に作ると中国海軍に利用される

 しかしこれらの記事は、“事実に基づかない内容”や臆測が多く、この問題を考察するための参考情報とするには適していない。そのように評する理由について簡潔に解説すると次のようになる。

  • 実際のクルーズ事例や国交省調査、RCLの計画案やこれまでの実例から、陸地に直接接岸する埠頭や旅客ターミナルをはじめとする大規模施設を建設するのではなく、沖合に錨泊してテンダーで上陸するか、陸地からの連絡橋で接続した橋形状の短い桟橋を設ける
  • 実際のクルーズ事例とRCLの計画案から地場製品を中心に販売するショップを設ける
  • テンダーによる分散上陸(時間も場所も)とするなど上陸人数は制御可能
  • 占領後に港湾拠点とするなら軍事ロジスティック用の大規模施設や道路のための平地も必要だが、その余地は計画予定地にない(※ただし、この計画とは別に日本側で軍港や関連施設を整備した場合、状況は異なる)
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