奄美大島クルーズ誘致計画はなぜ挫折したのかクルーズ市場最前線(3/4 ページ)

» 2019年09月26日 06時00分 公開
[長浜和也ITmedia]

客船寄港に伴う環境負荷と「世界自然遺産登録」との関係

 RCL資料ではクルーズ船客が立ち入れるエリアを制限することで、数千人規模の観光客が集中することによる弊害を回避するとしている。とはいえ、数千人規模の人間が定期的に滞在することは、地域社会や住民、そして環境に大きな負荷をかけることに違いはない。

 沖縄や先島諸島などで大型客船(総トン数10万トン超、船客数船員規模)によるクルーズを実施している企業では、このような“観光負荷”を回避する方法として、先に述べたようなテンダーによる上陸人数の制限や上陸先の分散、滞在時間のシフトといった取り組みを始めている。ただ、RCL資料では、このような上陸人数のコントロールについて言及していない。

 なお、大型客船そのものが排出する環境負荷については、2020年施行に向けた環境規制(使用燃料の硫黄分を従来の3.5%から0.5%以下に)への対応などで負荷の軽減が実現する。同様に、バラスト水管理条約の17年9月発行により、ほとんどの新造大型客船ではバラスト水の浄化装置が義務付けられている。生活排水や機関冷却水、ごみについても国際環境基準を満たす水質に処理した後、寄港中は船内に保存し、出港後、沖合(多くの場合10浬以上)にて排出する。

 寄港誘致に伴う大型客船接岸用の大規模埠頭や港湾設備の建設の可能性は低く、観光客の過度な集中による弊害は制御可能で、大型客船の寄港による環境負荷は新しい法規制によって軽減されつつある。しかし、それでも環境に負荷を与えることには変わりなく、かつショッピング&レストラン施設の建設、プライベートビーチの整備も必要だ。RCL資料では、遊歩道やステージの設置も訴えている。

 国交省の資料では、瀬戸内町の寄港計画予定海域において、池堂地区には国立公園区域に指定される海域陸域はないものの、薩川湾、瀬戸崎地区は海域が普通区域に含まれ、瀬戸崎の陸域は第2種特別市域に重なるとしている。

 さらに、WWFジャパンの調査では、寄港地想定海域の1キロ以内に多くの造礁サンゴの群集を確認し、狭い湾内を寄港地とすることで、水質や海流の変化による環境破壊のリスクが高まるとしている。また、鹿児島大学国際島嶼教育研究センターが19年5月に実施した調査によって、世界では奄美大島だけに生息するアマミホシゾラフグの産卵巣が確認された。さらに、WWFジャパンが環境調査と合わせて実施した住民への聞き取りで、地元住民で誘致を望む声は皆無であったこと、瀬戸内町対岸にある加計呂麻島で島民の6割以上が計画見直しを求めていることも報告されている。

国交省が調査した大型客船寄港地としての評価。左から3つが瀬戸内町の候補地。池堂以外は国立公園普通地域に含まれる

 これらの調査結果は、いま進めている奄美大島地域を含めた南西諸島の世界自然遺産登録において必須となる、「貴重な自然と野生生物の保全」「地域住民への十分な配慮と合意の形成」がクリアできていないことを示している。これについてWWFジャパンは、「世界自然遺産への登録を、危ういものにする大きな要因といえる」と瀬戸内町に提出した要望書の中で警告している。

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