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石原さとみが魅力語る 東京2020パラリンピックで東京は変われるか新連載「パラリンピックで日本が変わる」(3/4 ページ)

» 2019年10月04日 05時00分 公開
[田中圭太郎ITmedia]

パラスポーツを支援する企業

 この「新豊洲サマーナイトフェス」を主催したのは、行政ではなく東京ガスだった。東京ガスは2013年から障がい者スポーツの支援を始めた。その後、東京2020オリンピック・パラリンピックのオフィシャルパートナーになっている。

 とはいえ、一企業がパラリンピックを大々的にPRするイベントを開催するのは珍しい。なぜ東京ガスがパラリンピックや障がい者のスポーツを支援するのか、東京2020オリンピック・パラリンピック推進部長の八尾祐美子さんに話を聞いた。

photo 東京ガス東京2020オリンピック・パラリンピック推進部の八尾祐美子部長

 八尾さんは2018年4月に現在の部所に着任し、1年半近くの間に多くの競技を見てきたという。トークショーにも出演した水泳の木村選手は東京ガスに所属している。最初に木村選手の応援に行った時に、パラ水泳を見てとにかく驚いたと話す。

 「両手のない人が平泳ぎをしているのを見て、どういうことなんだろうって思って最初はびっくりしました。でも、見ていると見慣れるんですね。その選手が持つ、全身の機能を最大限使って泳ぐ姿は素晴らしいです」

 八尾さんは、子会社のホテルに出向していた時に、知的障がいのある男性を雇用した経験があった。その際に、男性のためにどのようなことができるかを職場全体で考えたという。

 「知的障がいのあるスタッフにタオルを畳む仕事をお願いしていたのですが、まっすぐに畳めないのを見た他のスタッフが、作業台にビニールテープを貼って、テープに合わせて畳めるように工夫をしていました。障がいのあるスタッフは、仕事ができるようになって顔つきが変わってきましたし、実はそれまで職場は少しギスギスしていたのですが、彼を中心にしてみんなが優しくなれて、雰囲気がよくなりました」

 障がいがあるからできないと決めつけるのではなく、何ができて何ができないかを知ることで、その人にあった仕事を任せることができる。障がいを理解するために、まずその人ができることを「知る」ことが大切だったと八尾さんは振り返る。それは、パラリンピックの支援でも同じだという。

 「パラスポーツの魅力は、まだそれほど知られていませんよね。知らないとなかなか興味も持ってもらえません。でも知れば、パラアスリートの能力の高さと競技の面白さは、必ず伝わると思っています。スポンサー企業で一丸となって努力して、大会までにパラスポーツを知ってもらいたいと思っています」

photo 「新豊洲サマーナイトフェス」であいさつする東京ガスの内田高史社長

パラリンピックと超高齢社会の未来

 企業からの支援という点では、東京2020はこれまでの大会と大きく異なっている。東京2020では初めて、オリンピックとパラリンピックの両方を支援することをスポンサーの条件とした。その結果、8月末現在、70社以上の企業がスポンサーとなっている。

 では多くの企業は、条件だったからパラリンピックのスポンサーになったのだろうか。その問いに対し八尾さんは、条件とは関係なく、企業はパラリンピックを支援する意義を感じていて、そのメリットもあると説明する。

 「企業がパラスポーツを支援することはどういうことなのかと言うと、共生社会の実現と言われていますが、もう少し分かりやすく表現すると、超高齢社会にどう対応するのかに行きつくと思います」

 日本では人口に占める65歳以上の割合が、2030年に3割を超え、40年から50年頃には人口の4割以上になるとみられている。しかもその数字は全国平均であり、秋田県などは65歳以上が5割を超える。

 「障がいがある方の年代別の割合を見ると、増えているのは65歳以上の方です。歳を取ってから体が不自由になった人が増えてくるのが、超高齢社会の実態でしょう。企業は自社のサービスを考える上で、そういう方々のニーズを知ることが必要になります。

 例えば当社はインフラであるガスを扱う会社です。台所をお預かりする企業として、高齢者の料理教室を開催しているほか、生まれつきの障がいや脳梗塞、事故などで片手が使えなくなった方に片手でできる料理の方法をご提案しています。片手でも力を入れずにペットボトルの蓋を開けることができる器具や、片手で使える調理器具を紹介し、器具の販売やレシピの公開にも取り組んでいます。

 これは障がいのある方からヒントをいただきました。障がいのある方、高齢者、外国人といった多様な方々が快適に暮らすことを考えた時に、ビジネスのヒントが生まれ、イノベーションが起きます。そのヒントを知るきっかけとして関わりやすいのが、障がい者のスポーツへの支援です。支援を通して障がいのある人の存在を身近に感じ、多様な方々のニーズを知ることができると思っています」

 八尾さんは企業がパラスポーツを支援することは、誰もが暮らしやすい社会の実現につながると感じている。

photo ペットボトルをシートの上に置き、蓋に器具をつけることで、片手でも力を入れずに蓋を開けることができる
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photo 東京ガスが紹介したさまざまな調理器具。障がいのある人でも一人で料理がしやすいように工夫している

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