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» 2019年10月07日 05時00分 公開

【新連載】人事ジャーナリスト・溝上憲文の「経営者に告ぐ」:“高齢者版追い出し部屋”だけじゃない 70歳雇用義務化がもたらす「どの世代にも残酷な未来」 (2/4)

[溝上憲文,ITmedia]

70歳雇用を前提にした人事戦略

 現在の再雇用者の平均年収は約344万円(産労総合研究所調査)と現役時代の半分程度に下がるうえ、役職も外れ、仕事の中身も現役社員のじゃまにならない程度の補助作業というのが一般的だ。その一方で再雇用者のモチベーションダウンも指摘されている。法定定年年齢が65歳に引き上げられると、社員にとっては現役時代の給与がある程度維持されるというメリットもある。

 しかし企業にとっては60歳から70歳まで10年間雇用することになると、全体的な賃金制度の見直しだけではなく60歳以前の能力開発などの人材投資も必要になる。

 いずれにしても企業にとっては70歳雇用を射程に入れた人事戦略を練り直す必要がある。すでに大手企業の一部は政府の動きを織り込んで65歳定年に踏み切った企業も少なくない。65歳定年制を導入した企業の人事担当者の多くは「いずれ現在の60歳定年から65歳定年になり、さらには70歳雇用が当たり前になる。そうなる前に今から準備している」と語る。

 だが、65歳定年を導入した企業は全体の16.1%にすぎない。たとえ給与を半額にした再雇用制度でも維持するのに苦労している企業も多く、これ以上の雇用は難しいという声も多い。日本・東京商工会議所の「高齢者雇用の拡大に関する調査」(2019年1月9日)によると、継続雇用年齢の65歳超への義務化に対して「すでに65歳超の者を雇用しているが、義務化に反対」が29.7%、65歳までは雇用できるが、それ以上の対応が難しい」が20.8%。計50.5%が反対している。

 仮に60歳から70歳まで定年や雇用確保義務が延長されると、人件費の負担も大きくなる。そのためには現役世代の賃金の削減など、賃金制度改革も避けられない可能性もある。今以上の法的な雇用年齢の引き上げに戸惑いを隠せない企業も多い。

 一部上場企業のネット広告業の人事部長は「65歳まで再雇用するのも大変なのに70歳は想像外の話。当然人件費は増えます。今の再雇用者は毎年50〜60人程度とそれほど多くはないが、その下の世代のバブル期入社組が多く、4〜5年後は毎年数百人単位で増えてきます。今のところ業績は悪くありませんが、会社の体力が5年後も続くか分からないし、事業が縮小すると雇用するのも厳しくなります」と、不安を口にする。

 それでも政府が70歳までの雇用義務を法定化した場合はどうするのか。人事部長は「賃金制度の抜本的な改革が不可欠だろう」と指摘する。また、別の建設関連企業の人事部長もこう語る。

 「再雇用の社員に限らず現役世代も含めて今の年功賃金から完全成果主義に転換し、成果に応じて給与が増減する仕組みに変えていく必要があるでしょう。当然、これまで法律があるから仕方なく福祉的に雇ってきた再雇用者社員はお荷物扱いされるでしょうし、場合によっては60歳以降も残すかを早い段階で選別し、残さない人は退職してもらうことも考えないといけないでしょう」

phot 日本・東京商工会議所の「高齢者雇用の拡大に関する調査」

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