髪の毛1本で病気を発見? 日本発「毛髪診断」が秘める可能性世界を読み解くニュース・サロン(2/4 ページ)

» 2019年10月10日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

「毛髪による健康診断」のメカニズムとは?

理化学研究所の辻孝氏

 まずこのプロジェクトがどういうものなのか見ていきたい。

 もともと、ともすれば絵空事にも聞こえるこの研究を提唱したのは、国立研究開発法人理化学研究所の辻孝氏。生命機能科学研究センター器官誘導研究チームのリーダーである辻氏は、再生医療の研究に長年携わってきた研究者で、毛髪も専門分野の一つだ。また、毛包再生医療の第一人者でもある。

 辻氏が、「毛髪には多様な健康データが残されている」という事実に目をつけて、大々的に健康診断に利用するためのプロジェクトを開始しようと考えたのは2016年のことだった。それから企業と話をしながらコンソーシアムを立ち上げる準備を進め、17年から理化学研究所とアデランスやヤフー、京セラ、島津製作所、ダイキン工業、東ソーといった企業21法人と共に「毛髪診断コンソーシアム」というプロジェクトを開始した。

2017年に「毛髪診断コンソーシアム」を開始

 ではこの毛髪による健康診断というのは、いったいどんなメカニズムなのだろうか。

 従来の血液や尿による健康診断は広く普及しているが、実は不安定な部分がある。食べたものや飲んだものなどですぐに診断の数値が大きく変動してしまう。

 辻氏はそれに注目し、安定した健康指標は毛髪にあるのではないかというアイデアに行き着いたという。辻氏によれば、「髪の毛はそもそも細胞です。髪の毛は毛母という細胞が分裂して、内部にケラチンという繊維がたまって、死んだ細胞の集合体。しかも毛髪はミイラにも残っているくらい安定しており、細胞の標本なのです。髪の毛は、体の状態を表す記憶媒体だと言っていい」という。

 辻氏はこう続ける。「毛母は細胞ですが、細胞には細胞膜があって、選択的にしかモノが入っていかないのです。つまり朝食べたものなどに影響されない。だから安定している」

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