アップルの“告げ口”でサムスンに危機? 貿易戦争を揺るがす一声世界を読み解くニュース・サロン(4/5 ページ)

» 2019年10月17日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]

 米国第一主義で、国内の経済を最優先するトランプは、アップルが米国にもたらしている「経済効果」を評価しているからだ。トランプは実際に18年、一般教書演説で「アップルは3500億ドルの投資を米国内で行い、新たに2万人を雇用すると発表したばかりだ」と述べている。

 さらにアップルは19年8月に公式サイトで、同社が「全米50州にわたり、240万人の雇用を生み出して支援しており、この数字は8年前の4倍になる」と発表している。また18年には、9000の米企業とのビジネスで600億ドルの取引をし、45万人の雇用を支えているとも喧伝(けんでん)している。

 しかも20年に大統領選を控えているトランプにとって、この層にしかるべきタイミングで「優遇措置」をアピールするのも効果的かもしれない――。そんな計算があるのだろう。しかもサムスンを打ち負かすための措置となれば、「アメリカを再び偉大な国にする」ならぬ、新スローガンの「アメリカを偉大な国のままにする」の後押しにもなるだろう。

 とにかく、クックのトランプに対する影響力はかなり強いといわれている。

アップルとトランプの動きによって、サムスンはどうなるのか(写真提供:ゲッティイメージズ)

サムスンのビジネスを左右する、アップルの動き

 トランプ政権は現在、中国との貿易戦争の真っ只中にある。簡単に背景を記すと、18年3月、国家経済会議(NEC)の委員長が辞任を発表し、中国に対して強硬な姿勢を貫くピーター・ナバロ大統領補佐官の存在感が、やはり対中強硬派のウィルバー・ロス商務長官の存在感と相まって高くなった。そこから対中の貿易戦争が本格始動する。

 交渉は決裂し、18年7月に発動された対中関税の第1弾から次々と関税措置が発表された。第4弾となる制裁関税は19年9月1日に発動したが、現在、一部品目は12月15日まで発動が延期されている状態だ。その品目には、スマホやノートPC、ゲーム機など約550品目が含まれ、iPhoneなども対象となっている。

 冒頭のサムスンに絡む話は、トランプとの関係を何年もかけて築いてきたクックによる「告げ口」に他ならない。トランプが、耳を傾け、理解を示したのも仕方がないのかもしれない。クックにしてみれば、アップルのビジネスを考えれば当然のことという感覚だろう。

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