アップルの“告げ口”でサムスンに危機? 貿易戦争を揺るがす一声世界を読み解くニュース・サロン(5/5 ページ)

» 2019年10月17日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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 とはいえ、「一民間企業のトップがお願いしたことに対して、大統領たるものが『はいはい』とすぐに応じるわけがないでしょ」と思うかもしれない。それは正しい反応だが、ただそこはトランプ。実際にはそんなことが起きている。実は、iPhoneなど一部品目に対する対中関税制裁の第4弾が12月15日まで延期になったのは、クックがトランプの娘婿であるクシュナーに電話を入れて、「これじゃサムスンに負ける」とトランプに直談判したからだとされる。クックが第4弾の発動を延期させたのである。結局、トランプ政権は「クリスマスシーズンを考慮した」という名目で、iPhoneなどへの発動を12月15日まで延期した。

 クックにはそれほどの「声」があるということだ。

 今後、サムスンはトランプのツイートから目が離せないだろう。サムスンという企業にはクックのようなCEOがいないため、トランプの動向を、それこそ「大金をはたいてコンサルタントを雇う」などして見ているしかできないのかもしれない。または大金を使ってロビー活動をするしかない。

 このままいけば12月15日には第4弾が全て発動される予定だが、トランプはサムスンに対して米市場で何らかの措置を行うのか、はたまた米中貿易戦争の関税からアップルを救うのか。さもなくば、さらなる発動延期を行うのか。かなり強引な動きを躊躇(ちゅうちょ)なくやってしまうトランプだけに、サムスンは気が気でないだろう。

 もともと、トランプは韓国に対して上から目線で軽視している感じすらある。18年の米韓FTA(改定米韓自由貿易協定)の再交渉でも、トランプは担当のロバート・ライトハイザー通商代表に対し、韓国に「脅し」をかけたら余裕で「ディール」できるとアドバイスしている。また19年8月にも、ニューヨークの講演でこんなふうに韓国をばかにしている。「韓国から十億ドルを取るのは、(ニューヨーク州の)ブルックリンのアパートの住民から114ドル13セントの家賃を回収するより、よっぽど簡単だったね」

 とにかく、しばらくはトランプがどんな動きを見せるのか要注目だ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)がある。最新刊は『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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