「3年で30万人」は絵空事か 就職氷河期世代の雇用対策に欠けた、深刻な視点河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(4/4 ページ)

» 2019年11月22日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

労働力の2割を占める氷河期世代

 念のため断っておきますが、私は国の氷河期世代の支援に反対しているわけでありません。遅きに失した感はありありですが、何もしないよりもやった方がいいし、一人でも多くの人たちが自信を取り戻してくれたらいいと心から願っています。

 とはいえ、今のやり方がベストとは到底思えない。もっと他のやり方もあるんじゃないか、と。全国の企業に氷河期世代の正社員化を義務付けたり、賃金を上げることを徹底させたり、あるいは、ベーシックインカム(BI)を試験的に氷河期世代に導入することも議論してみてほしいのです。

 ベーシックインカムとは、単純・明解な一つの制度構想で、

  • 性別や年齢、社会的地位、収入に関係なく全ての個人を対象に
  • 無条件に
  • 社会が、あるいは社会を代表して国家が
  • 一定の生活保障金額を一律に貨幣で支給する制度

 のこと。インド、ケニア、フィンランド、オランダ(ユトレヒト)、米国(カリフォルニア州オークランド)、カナダ(オンタリオ)、イタリア(ルボリノ)、ウガンダで、さまざまな条件下で試験的に導入実験を行い、実験期間が終了した国々ではその効果と問題点が報じられています。

 日本でも小池百合子東京都知事が希望の党を立ち上げ、衆院選に向けた政策集を発表した際、「AIからBIへ」という文言のもと、ベーシックインカムを社会保障政策の転換案の一つとして盛り込み、話題となりました。といっても、その後どうなったかは一切報じられていませんが……。

 いずれにせよ氷河期世代(35〜44歳)は1679万人存在し、労働力の中核を担う20〜69歳(7891万人)に占める割合は21.3%です。人手不足と嘆く前に、氷河期世代に目を向けた方がいいに決まってる。超超高齢化社会で2割の労働力がどういう意味を持つのか? 絵空事ではなく、地に足を着けた策を進めてほしいです。

河合薫氏のプロフィール:

photo

 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)。2019年5月、新刊『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)発売。


前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.